第5話 息子ちゃんの将来の夢

 これは今から〇〇年前、息子ちゃん(2歳)がまだ保育園に通っていた頃のお話です。


 私がいつものように保育園へお迎えに行くと、先生がいつもの様に息子ちゃんを呼んでくれます。


「息子ちゃ〜ん、ママがお迎えに来てくれたよ〜」


 その声に反応して、教室の奥から私の元へ、とてとてと駆け寄ってくる息子ちゃん。


 ああ、カワイイ!

  (はい。親バカですが、何か問題でも?)


「今日は英語(英会話) の時間がありました。息子ちゃん、すっごくがんばっていましたよ〜」


 息子ちゃんの荷物を持ってきてくれた先生が、ニコニコと『今日の息子ちゃん』の報告をしてくれます。

 (保育園で英語?と思われるかもしれませんが、息子ちゃんが通っていたのは幼児教育に重きを置いた私立の保育園でした)


「今日の英会話クラスは『大きくなったらなりたいもの』を発表してもらったんです。お母様、息子ちゃん、大きくなったら何になりたいって言ったと思います?」


 そう言って、先生が満面の笑顔を向けてきました。


 大きくなったら?

 何だろう……公務員? 警官? いや、流石に違うか。


 2歳になったばかりの息子ちゃんの将来の夢……

 だ、ダメだ、全く想像がつかない……


 母親なのに分からないなんて……なんて私はダメな母親なのおぉっ!


 心の中で絶叫しつつも平静を装って息子ちゃんに話しかけました。


「息子ちゃん、何て言ったの? ……先生、何て言ってました?」


 私は息子ちゃんの頭を撫でながら何でもない風に先生に問いかけました。


「男の子は『アン◯ンマン』で、女の子は全員『メロン◯ンナちゃん』っていうお答えが返ってきました」


「あぁ、アン◯ンマンですか〜」


 なるほど、アニメキャラクター!

 私は将来の夢と聞いて、少しリアルに考え過ぎていたようです。


 そうかそうか、息子ちゃんは『アン◯ンマン』に憧れていたのね〜。


 『正義の味方』に憧れる息子ちゃん。

 なんて可愛い将来の夢なの〜♡(親バカ)


 私はそんなふうに思いながら息子ちゃんの頭を撫で回していましたが、先生のお話にはまだ続きがありました。


「実は、男の子みんなが『ア◯パンマンになりたい!』って言っているなかで、1人だけ、息子ちゃんからは違うお答えが返ってきたんですよ♪」


 そう言うと先生は、ニヤッと意味深な笑顔を浮かべました。


 な、何でしょう……

 息子ちゃんは一体、何になりたいと答えたんでしょう……


 はっ! ま、まさか『メ◯ンパンナちゃん』になりたいって言ったんじゃ!?


「ええっと……うちの息子ちゃんは、何になりたいと?」


 私は、色んな意味でドキドキしながら先生に問いかけました。


 すると……


「息子ちゃんは、なんと!『しょくぱ◯まん』になりたいんだそうですよ〜♪ あっははは! 1番ハンサムですもんね〜」


 保育園の先生はそう言って爆笑したのでした。


 先生曰く、息子ちゃんくらいの歳の子は、最初の子の発言に釣られてしまうものなのだそうです。


 案の定、1番最初に発表したお兄ちゃんの『アンパ◯マン!』に釣られ、みんなが『アンパ◯マン!』と答えるなか、息子ちゃんは周りに流されることなく、ただ1人だけ『しょくぱ◯まん!』と大声で答えたそうです。


 2歳にして『正義の味方』の主人公ではなく『一番のイケメン』を選ぶ息子ちゃん……


 いろいろ思うところはありますが、まっ、元気なら何でもいいや!

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