第61話 黒の死齎
シンの一撃によって、絶対の防御力を誇る一人の冒険者が首を失った。
その光景に、場の緊張感が一気に高まる。
誰もが信じられない思いでシンを見つめていた。
だが、その中で一人だけ冷静さを取り戻した男がいる。
もう一人のトップ冒険者だ。
彼は大声で叫び、仲間たちに指示を出した。
「お前ら、今すぐ魔法で相手の視界を遮れ!」
その命令を受け、取り巻きたちが次々と魔法を放つ。
無数の魔法がシンめがけて放たれ、彼の視界を煙で覆い尽くした。
魔法の煙幕に包まれたシンを見て、冒険者は考える。
(アイツの【自動障壁】を突破したことを見るに、奴は恐らく攻撃力特化のスキル持ちなはず! 反面、それ以外のステータスは大したことないはずだ!)
そう確信した冒険者は、得意げに笑みを浮かべる。
(不意打ちが命中すれば、殺すのも難しくないはず! オレのエクストラスキル【神速】の効果を喰らいやがれ!)
次の瞬間、冒険者の姿が煙の中で霞んだ。
彼の放つ一振りの短剣が、音速を超える速度でシンの首筋を狙う。
――だが。
その一撃はシンの皮一枚を裂くこともできず、あっけなく弾かれてしまった。
「なっ!」
信じられない思いで、冒険者は息を呑んだ。
(攻撃力だけじゃなく、防御力まで常軌を逸しているだと!? クソッ、こんなもん割に合わねぇ! オレだけでもここから逃げてやる――)
そう決意した冒険者は、再び神速を使って逃走を図る。
しかし、次の瞬間には彼の体が地面に倒れ伏していた。
「がはっ! く、くそっ、いったい何が……」
後ろを振り返った彼は、自分の両足が切断されていることに気づく。
それがシンの反撃によるものだということは、考えるまでもなかった。
「うそ、だろ? 速度すら、このオレを超えて……」
冒険者は戦慄しながら、シンの姿を見上げる。
ゆっくりと、冷酷な表情で近づいてくるシンに、彼は必死に命乞いをする。
「ま、待ってくれ! まずは話を――」
だがその言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
シンの放った一振りから、数十もの斬撃が放たれ、冒険者の体を一瞬にして細切れにしたのだ。
容赦のない攻撃を見届けたシンは、ゆっくりと視線を移す。
残る取り巻きたちを、ジロリと見据えた。
その眼光に怯えた取り巻きの一人が、フールに助けを求める。
「ふ、フールさん! このままだとまず――」
だが、彼の言葉は最後まで紡がれない。
シンの手から放たれた斬撃が、容赦なく取り巻きたちの命を奪っていく。
断末魔の叫びが雨音に掻き消されていった。
やがて、広場に残されたのはフールただ一人となった。
シンは冷たい眼差しで、フールを見据える。
「あとはお前だけだ」
そう宣言すると、シンは【
だがその時、フールが叫び声を上げる。
「舐めんじゃねぇ!」
彼の手には、手のひらほどの大きさの六角形の
シンの斬撃がフールに命中したかに見えたが、フールは傷一つ負うことなく――代わりにダメージを受けたのは
シンとフールの間に大きな距離が生まれた。
(あれは……攻撃を肩代わりしたのか?)
シンは警戒しながら起きた現象を分析する。
見たところ、確かにダメージは
だが、受けたダメージを完全に無効化するというその性能は、通常のマジックアイテムの域をはるかに超えていた。
ああいった類のアイテムについて、シンにも心当たりがあった。
それはシンがアルトに復讐を果たした時のこと。あの時、アルトは突如として身に余る力を得ていた。
今フールが見せた力は、あの時のアルトを彷彿とさせる。
シンの警戒心を察したのか、フールが意地の悪い笑みを浮かべた。
「気になるか? これは【
フールの言葉から、シンは彼が蘇った理由を悟る。
だがシンは、怯む様子を見せない。
「得意げに語って満足したか? お前がそれをどれだけ有していようと、ことごとく蹂躙すれば済むだけの話だ」
シンの宣言に、フールは高笑いを上げる。
「ハ、ハハッ! 何を言いだすかと思えば! 残念だったな、お前はもう詰んでるんだよ! この場所に来た時点で――いや、俺様に初めて逆らった時点でな!」
そう言って、フールは黒い靄の塊を取り出した。
その靄から放たれる気配は、これまでのものとは比べ物にならないほど禍々しい。
その光景にシンは無意識のうちに真実を悟っていた。
ユニークスキル【共鳴】を持ち、高い回避能力を誇るイネスが殺された理由。
その真相は、間違いなくあの黒い靄にある。
ぎょろりと。
靄の中から現れた白い眼球がシンを捉える。
「今さら後悔しようがもう遅い。これは霊宝具――【
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