田吾作クエスト〜農業でレベルアップ?! おらこんな村いやだと思ってたら転生したので、異世界さ救ってみるだ〜
日乃本 出(ひのもと いずる)
第1話 おらこんな村いやだ!
「もう、我慢さできねえだ! おらこんな村さ出ていぐだ!」
玄関の土間から、
「急にどうしただあ、田吾作や」
「んだあ。村さ出ていぐなんて、そんなおっとろしいこと言わねえでくんろ」
二人の言葉を聞き、田吾作はなおさら声を大きくして二人に言った。
「どうしたもこうしたもねえだ! 今の時代に、テレビもねえ! ラジオもねえ! 車もねえ! バスもねえ! 信号ねえ! そもそも電気がねえ! こんな田舎で一生を終えちまうなんて、おらぜってえに耐えられねえだ!」
田吾作の主張を、おっとうが真っ向から否定する。
「だども田吾作よぉ。それでおめえ、何か苦労したことさあっただか?」
「い、いんや、苦労さしたってえことはねえけどもよぉ……」
声が小さくなってきた田吾作に、おっかあがたたみかける。
「そしたら村さ出ていぐことねえべさぁ。このままずっと、おっとうとおっかあと幸せに暮らすだあ」
だが、おっかあのこの一言がいけなかった。
「このままずっとだなんて、おらあ気がくるっちまいそうだ! 嫁コさ来るあてもねえ! ずっとずぅぅぅぅぅぅぅぅっと、おらこんな村で生きていくなんて、おかしくなっちまうだ! おらだって、おらだって……あばんちゅーるとかいうやつがやってみてえだぁ~~~~~~~~!!!!」
そう叫ぶや否や、田吾作は全速力で家から駆けだしていた。
なしてだ! なしておらぁこんな村さ生まれてしもうただ! おらぁこんな村いやだ! こんな村さでていって……!
走りながらそこまで考えて、はたと田吾作は考えが止まった。
こんな村さでていって……おらぁどこにいけばいいだ? おらぁ何をすればいいだ? おらぁ農業しかできねえだ。だども、都会さ農業できるところじゃねえってみんな言ってるだ。じゃあ、おらぁ都会さいっても、この村さでていっても、何もできねえだ。おら……おら……結局、この村さ残るしかねえだか……。
絶望。その二文字が、田吾作の心を支配する。
駆けていたその足を止める田吾作。気がつけば村の外れにある竹林まで来てしまっていたようだ。
おら……おら……いったい、どうすればいいだ……。
田吾作はうなだれてゆっくりと前方へと足を踏み出した。
だが――そこに地面はなかった。
あっ?! と思ったところでもう遅い。田吾作が踏み出した先は、切り立った断崖となっていたのだ。
田吾作に襲い来る一瞬の無重力。次いで落下感。
「わっ?! わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」
崖は想像以上に高かった。どれくらいの高さかというと、落下する田吾作に死の恐怖と己の軽はずみさを後悔させる時間があるほどに、高かった。
い、いやだっ!! おらぁ、外の世界さ見てみたかっただっ! おらぁ、めんこい娘っこさとあばんちゅーるしたかっただっ! そ、それに……童貞のまま、おっちんじまうなんて……そんなの、ひどすぎるだぁっ!!
ああ、哀れなるかな純朴なる田吾作よ。田吾作が心で叫びをあげたところで、田吾作の意識は漆黒の闇の中へと飲み込まれてしまうのであった。
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