第11話 ドウタロウ 旅中にて 見つける
山道をずりずりと這いずる。毛虫のように。そうすると、出てくるのは獣だ。俺を明らかな弱者として認識し、俺はそれでもずり這いし続ける。
獣は熊のような獣で、まあぶっちゃけ熊さんだろう。異世界の熊さんだ。俺はそいつに睨まれている。顔が近付いてくる。怖い。いやこっわい。ああ、食べられるよこれ。
そう思っていると、異世界熊は俺に飛びかかってきた。
「グリシャー!!やれ!!やれー!!!早くやれー!!」
異世界熊が夢中になって俺を噛む。しかし、俺はずり這い中無敵なため何も痛くない。必死に噛み砕こうとしてるのは伝わるので、やはりいい気はしない。意識が俺に集中している間に、後方から光の矢のようなものが異世界熊を貫く。どしんと倒れる。
グリシャが笑いながら出てくる。
「あはは、ドウタロウ。ほんっとあんたダサいわ!笑える〜。なんで死なないのよ。」
「知るか!というかグリシャお前わざとだろ!もっと早く撃てるくせに、絶対遅らせてるだろ!!俺の怖がってる姿を楽しみやがって…」もう我慢ならん。おてんばが過ぎる。俺が無害だと思ったら生意気な態度をしてきやがる。
「ドウタロウ、ごめんね。でも、旅の保存食作れるわね!」悪びれもなく、話をホイホイ進めやがる。まあ、元気ないよりマシだとは思うのだが…
「簡単に作れるとかいうなよ、俺だって保存食の作り方なんて、大した知らないんだ。グリウに教わったからいいものの…できれば解体なんてしたくもない。」はあとため息をつき、さっさと保存食にするための準備をする。
旅をして早1週間、首都へ向かう旅は簡単ではなかった。大前提に、俺はキャンプもそこまで好きではない。動画でキャンプしてる人を眺めるくらいでちょうどいいタイプなんだ。そこに加えてグリシャも旅自体は好きではないらしく、特に役に立たず驚いた。なぜついて来たってレベルだ。まあでも、俺が首都に行った時に、何もできないからグリシャは必須なのだが…にしたって、もう一人熟練の人がついてきて欲しかったところだ。
そもそもちゃんと辿り着けるのだろうか…とほほ…と思っていると、グリシャが駆け寄ってきた。
「ドウタロウ、あたしが野営地作ってあげたわよ!今日の仕事は私終わり!」自信満々に笑顔で言ってくる。「んなわけあると思うか?晩飯の準備をするんだよ!俺も終わったら手伝うから!」
え〜と言った声が聞こえてくる。「お父さんから貰った保存食食べればいいじゃん。」
「あのなあ、少しでも保存が効くものは後から食べようって話たろ。何あるかわかんないんだから…」クドクドと俺が話し始めると、グリシャは離れていく。「わかったわかった。芋虫ドウちゃんが正しいよ。」ニカっと笑いながら野営地に戻る。
まあ、出会った頃より、マシか。そう思うと、全部が丸く収まる。腹たつが、可愛らしくもある。
保存食を作り、野営地でスープと異世界熊の肉を焼いて食べる。調味料もちゃんとこの世界はあり、基本的には俺の世界と変わらない。ただ、現実世界では取れない方法から採れたりすることがあるので、やっぱりそれは異世界だ。魔法がかなり便利な世界ということはわかった。
「ねえドウタロウ。あなたのスキルってまだ新しいのないの?」不意に質問されきづく。そういえばステータス画面よく見てなかった。
「ああ、どうだろう。ちゃんとまだ見たことないなそういえば。今見てみよう。」ステータス画面をオープンする。やはりずり這いだけか…そう思った時に、画面を見ると左の方に隠れたようなタブがあった。それに触ると…出てきた…技スキルだ!
「どうしたの、ドウタロウ。なんか発見した?」
「ああ、重大なミスをしていた。どうやら俺は補助スキルの画面だけを見て技が増えてないと思っていたんだ。攻撃スキル、守備スキル、補助スキルで分けられている…くそ…俺はそれを知らずずっと屈辱的な行為を他人に見せ続けてきたのか…」恥ずかしすぎて俺は死にそうだった。いやもう死んだんだけどね。一回。
「なあんだ。技あるんだあ。残念かも。」つまらなさそうに空を見る。
「なんでだよ。転生者としてこの国初の快挙が芋虫じゃなくてよかったろ!ああよかった。この国の、いや全世界の人々に芋虫太郎とか名前つけられなくて済んだんだ!!ああ!よかった!!!」心底助かった気持ちになる。
「まあ、最初はそうだったんだけど。なんかドウタロウが面白かったからもういいかなって思ってたんだよね。でも、おめでとう。よかったね!」意地が悪いけど、こういう優しさは持ち合わせているから憎めない。
「ね、なんの技あるか見てみてよ。」
「あ、ああ!そうだな!見てみよう。すごい技があるかも…」技スキルの攻撃タブを開く。
「…ま、まじかあ…」
「なしたの?やっぱりなかったの?」
「いや、あるにはあるんだけど。柔道技しかない。」そういえば、女神に言われたことを思い出した。ジョブはなくてJUDOってスキルがあるって。意味わからん。
「その柔道っての?どんな技なの?」
「今覚えているのは、大外刈り、払い腰、背負い投げ、足払い。守備技ははたき落としだな。」これスキルにする意味ある?普通に出来るんですけど…
「へえ、それでさっきの獣も倒せちゃうのかな?」
「いや無理だね。」
へ?と驚くグリシャ。「そしたらその技どこで使うのうよ。」
「うーん、人に対してかな。でも武器とか魔法技やられたら使えないかも。」
「いつ使うのよ。この大陸で魔法を使わない人はいないわよ。グン国は最弱の国だけど、魔法を使えない人間はいないわ。
「ああ、じゃあ、基本的には素手のケンカとかの時に使えるかな。」
パチパチと焚き火の音が鮮明に聞こえる。空虚な時間が流れる。
グリシャは呆れたように笑っている。
「ドウタロウ。大して芋虫の時と変わらなさそうで安心したわ。」期待を裏切らないわねと言っているようだ。
明日、試しにスキル使ってみようかな。意味なさそうだけど。満点の星空の下、悲しい決意表明をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます