第8話 タイムリミット
「ドウタロウ、準備はいい?」グリシャが問いかける。
「ああ、荷物は持てるものは持ったよ。」
グリシャと俺は出発の準備をして、あとは旅立つだけだった。
グリシャは簡素な服の上にローブを羽織り、本格的な旅人のスタイル。やはり都会育ちの娘なだけあって、どんな姿でも綺麗な子だ。立ち振る舞いや姿勢の問題もあるんだろうな。
旅に出ろと言われてから、グリシャは変わった。少し落ち込んでいて、俺への攻撃的な雰囲気も一緒に萎えたのか、普通に会話はしてくれている。
旅の買い物も、俺は外へ出れないから買いに行ってくれた。文句の一つでも出るかと思ったが、それも言わずにだ。
ただ一つ、気になることがある。
俺へ買ってきてくれた旅が 柔 道 着 なんだ。
「グリシャ、あの、さっきも聞いたんだけどさ。この俺の旅の服着ないとダメ?。」
「あんたの私服はこの世界のじゃないからバレちゃうじゃない。大人しくきときなさい。」自分の荷物の最終チェックをしているのかこちらを見ずに話す。
「でもなあ、この度の服…確実に柔道着なんだよ…柔道着って俺の世界の服だし、てか服というかさ、競技する時にしか着ないものだよ。」
「あんたの世界ではそうなのね。この世界では遥か昔からある伝統的な旅の服よ。旅をする男はそれを着るのが源担ぎなのよ。この村で売ってるの探すの大変だったわ。」少し自慢げに話すグリシャ。
いっそ無い方が良かったな。とは言えないので仕方なく着る。伝統的な旅の服ってのが引っかかるなあ。大昔に柔道家が転生でもしたんじゃ無いのか…
柔道着を着るために、服を脱ぎ、パンツ一丁になる。といっても包帯で身体中巻かれているので、パンチ一丁とは言い難いが。
その上に柔道着を着る。帯は白帯を渡される。俺は黒帯持ちだったから、黒帯が欲しかったな…まあ初段なんだけどね。
そしてその上にローブを羽織る…絶対におかしいだろ…
「あらドウタロウ似合うじゃない。前の世界でも着てたってのはあながち嘘じゃ無いのね。って、なんで裸の上に旅服着てんのよ!」
「え、違うのか?俺の世界ではさ」
「違うわよ!ばっかじゃないの!」笑いながら怒るグリシャ。初めて笑ったところを見たかも。俺もつられて笑う。今が話すタイミングかな。
「そうか、すまんすまん。…なあ、ちょっとだけ話できるか?」
笑っていたグリシャがすまし顔になる。
「何よ。」
「まずは、ありがとう。俺を見つけてくれて。君が見つけてくれなかったら俺は死んでいた。そして怪我を治療してくれてありがとう。例え、誰かに見つけられてもあの火傷は通常の治療では治らないはずだ。君が恐らく、治療のなんらかの特別なスキルがあるんだろう。重ね重ねありがとう。そして、最後に、俺のために旅についてきてもらう羽目になってしまって、本当にすまない。君はお父さんと居たかっただろうに…俺も全力で君が無事に辿り着けるように頑張るよ。」
グリシャは、恥ずかしそうに斜め上を見ながら話を聞いてくれていた。少し、考えた後に、口を開いた。
「ドウタロウ。私こそごめんなさい。あなたを見つけた時、私たちの国にも転生者を迎えることができると思ったの。そして勝手に強力な転生者だとも思った。そしてお父さんが王都へ送ることできっと、大出世して喜んでくれると思ったの。だって、この国で初の偉業なんだよ。でも、思うようには行かなくて、あなたは私たちよりスキルも持たない普通の人間だった。しかも臆病に見えて情けなくなってくるぐらい。ゴミだと思ったわ。でも、人に対してゴミとかそういうふうに考えている私の方がゴミよね。そう思うと急に恥ずかしくなったの。でもあなたに素直にはなれなくて、ずっとキツく当たっちゃった。だから、ごめんなさい。あなたと旅して王都へ戻ることは、きっとお父さんが私に与えた試練なんだと思う。」
真剣な眼差しはまるで宝石のように光り輝いていた。若いって青春…
「だから、頑張ろう」口を大きく開けて笑うグリシャを見て、初めてこの世界で味方ができたような。そんな気がした。
「…ああ!二人で頑張ろう!」
俺は少し、悲観的に考えすぎていたのかもしれない。この子となら俺は頑張れる。
この異世界で!!
朝日は山から顔を出し、白い光が大気を通して世界に降り注ぐ。ダイヤモンドダストのような光のエネルギー帯がそこらでふわりと現れては消えていく。王都グンガイへの旅を始めよう。俺は強くならなければいけない。
強い意志を俺は持てた気がした。
旅路を見つめていると、横からグリシャが顔をだす。
「一つ言い忘れてたんだけどさ。」
「ん、なんだ?」
「治してくれてありがとうっていってたじゃん。その傷、治ってないよ。」
「え?」何いってんのこの子。
「その傷ね、私たちにはどうにも出来なかったんだ。それをこの村で治せる人はいない。というより、王都でしかいないと思う。私のスキルは、治療じゃないの。止める能力なの。だから、あなたの傷は今痛みと傷の進行を止めてるの。」
「え?」理解が追いつかない。治ってない?止めてる?
「そういうことだ。ドウタロウ。」
グリウが後ろから声をかける。見送りに出てきたみたいだ。
「ドウタロウ。王都へ行くことはお前のためでもあるんだ。グリシャの能力の期限はそう長くない。グンガイへは長くて1ヶ月。ギリギリ持つかどうか…だからこんな急がせて出発させたこともあるんだ。まずは、王都へ着いたら友人のバオレムへ会いにいけ。場所はグリシャが知っている。バオレムならそのとんでもない火傷も治せる人間への伝手があると思う。」
俺の肩にそっと手を下ろす。
「健闘を祈る。」いい笑顔で俺を見ている。
うんうん。いい雰囲気で終わろうとしてるけど、おかしいよね。つまりこれ俺が死ぬってことだよね。死ぬ前に行けってことだようね。先に言おうよ。この異世界の人間たち頭おかしいんじゃないの。伝手があると思うってなんだよ。だいたい柔道着で旅するって意味わからんし、出来すぎだろ。
「ドウタロウ!!」
俺が頭の中で文句を言いまくっていると、いつの間にか10メートル先ほどにグリシャがもう歩いてしまっていた。
「早くいくわよ!」いい笑顔だ。
「ああ!行こう!!」涙を流して走ったのは内緒だ。
朝日が道を照らす。その旅は天国か、地獄か。
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