♰150 完全破壊の術式。




 地下牢にいた吸血鬼もどきらしい実験体のナーさんを連れ出して、上の階に出た。増援に来た聖也さん達と無事合流。引き返して他の壁も見て回ったが、出入り口らしきものはなし。


 優先生達とも合流が出来たので、見付け出した出入り口の前に集合した。


「いや、進撃一択だろ」と、聖也さんがドーンと言い退ける。


「向こう側に何があるかわかりません。“病院の廊下らしい”とは言え、そういう形の本拠地かもしれませんし、または普通の病院ということもありえます」


 優先生は、そうすげなく却下を下す。


「だが、手掛かりだ。本拠地だろうとも、実験体の調達先の病院だろうとも、手掛かりに違いないでしょう。これを確認しないと。ここでちんたらしてたら、消えますって。また手の中から、するするーってな。どちらにせよ、今用意出来る最強戦力でしょ」と、聖也さんが私を顎で差した。


「敏感な舞蝶嬢と、俺とあと一人か二人。その小数人で偵察する方がいいですよ。危険なら、短時間で最低限の情報を得て戻ってくる」


 そう提案。

 しかし、すぐに頷けないのは、過保護な大人達。


「全員で行くのはだめなの?」


 弟の燃太くんが質問した。


「素早く動ける少人数がいい。それに、まだ味方とわかってない吸血鬼もどきさんを見張る人員は割けない方がいいだろう。舞蝶嬢と、月斗、さん、だっけ? どうだ? あと奏人の四人で偵察に乗り込むのは」


 弟にしっかりと答えてやった聖也さんに意思を確認されて、考え込む。


「そうですね。みすみす手掛かりを逃すわけにもいけません」

〔舞蝶ちゃん!〕

「どのみち、破れるのは私だけのようですし、今しましょう」

〔舞蝶ちゃん~!〕


 徹くんの声が聞こえるけれど、スルー。というか、この言葉は徹くんにも言っている。

 この手掛かりが消える前に、今確認すべきだ。反対出来るほどの脅威を指摘が出来ず、行くことは決定した。


 出入り口を通るのは、私と月斗、そして、聖也さんと渦巻さんだ。


 この領域結界に侵入した時と同じく、月斗に術式を付与した足で蹴り壊してもらった。中は、本当に病院の廊下に見えるピカピカのフローリング。

 月斗から入って、左右を確認して、安全だと判断して手を差し出したので、それを掴んでくぐる。空気が変わった。現実だな、となんとなく理解した。

 あとから、聖也さんと渦巻さんが続けて出る。


「人がいます……し、病院ですね」と月斗が耳をすませて、それから鼻をスンと鳴らして、普通の病院だと断言。


「いやいや……マジか」


 聖也さんが左右をキョロキョロすると、すぐに刀を収めた。見覚えがある様子。


「知ってる場所ですか?」

「警察病院だ。ほら」


 取り出したスマホを突き付けてくる。


「……ここ、東京で……警察病院なんですか?」


 現在位置を示すアプリには、東京の警察病院と表示されていた。

 ヒュッと息を呑む音を出したのは、徹くんだったろう。



 徹くんの連絡で、公安の者が、ここで合流。そのまま、封鎖して、中にあった実験体の死体を運び出す。

 それくらいしか、手掛かりはない。


 あと、名無しのナーさん。彼が一番の手掛かりと言える。


 旅行どころじゃなくなったから、この際、全員が東京に戻ることになった。で、残る問題は、この領域結界。山梨と東京が繋がった、この出入り口。


「術式使いで出入り口を塞げるかな……」と、徹くんは悩んだ。


「舞蝶ちゃん、キーちゃんは壊せるかな?」

「んー。出入り口となると、双方を現実側から打ち消せば、多分。でも、この空間を壊したいだけなら、私やれると思うよ?」

「え……?」


 キーちゃんのひと鳴きで、双方の出入り口を打ち消せば、この空間を封鎖出来るだろう。でも、もっと手っ取り早い方法がある。

「ほら。湖の術式」と人差し指を立てて告げる。


 徹くん達が、サァーと血の気を引かせて、真っ青な顔になった。


「おおおおお、お、お嬢、おおおおいおち、落ち着いて」

「藤堂が落ち着いて」


 ガタガタガタガタと地震にでも遭っているかのように、震える藤堂。


「お嬢様? あの……あれは、ハッキリ見えないと、そう仰りましたよね?」とカタカタ震える手で、挙手するのは優先生。


「見えないけれど、見る方法はわかるし……おおよそ推測したら、建物を破壊する術式が浮かんだよ」

「……よくわからないが、物騒……? でも、可能なら、いいんじゃないのか?」


 聖也さんが優先生達の反応に怪訝そうに見つつも、手っ取り早い方がいいと賛成した。日本列島を壊す術式のことを知らないから、平然と言えるのだ。


「ちなみに、お嬢様自身に、危険性はないのですか?」


 優先生は、問う。四階分の建物の異空間の破壊に、危険はないかどうか。

「それなりに、気力の消耗はしますが、問題はありませんよ。ここに術式を設置して、外で発動すれば、破壊完了です」と言えば「ヒュー」と、聖也さんは口笛を吹いた。


 そういうことで、撤収。

 中心地に破壊の術式を置いて、警察病院の廊下で破壊。出入り口は、弾けて消えた。


「すげー」と拍手する聖也さん。横目で物言いたげな燃太くん。


「若。今のは、異空間の術式の破壊じゃない。建物の完全破壊の術式だ」と、渦巻さんが、黒マスクを震わせて教えた。


「……え?」とポカンとする聖也さんに、橋本さんも「建物を壊したことで、異空間を壊したんす……アタシなら、気力切れで倒れかねないほどの消費量かと……」と震えながら言う。


「…………すんません、舞蝶嬢。湖がどうのこうのって……どういうことです?」

「関係ない話です」


 笑顔で跳ね退ける。


「い、いや……ちょっと、燃太???」


 しどろもどろになる聖也さんは、隣の燃太くんを見たが、燃太くんは顔を伏せた。話すことを拒否。


 『トカゲ』の研究所を、破壊完了。

 残るは、生きた実験体の処遇。



 

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