♰127 嫌な予感と裏世界の忘年会。
家に戻って夕食が終わったあと、「徹くんに電話する」と宣言してから電話をかけた。
〔舞蝶ちゃんから電話! キュン!〕
テンション高い。
「こんばんは、徹くん。さっきぶり、お疲れ様。この前のグール化の術式について、何かわかった?」
〔お仕事の話かぁー〕
テンション下げないで。
「私、心配なんだよね。死体に施されたグール化の術式。あの数。……何人でやったかはわからないけれどさ……あの術式で合作でグールもどきを作られでもしたら、強敵を生み出されちゃうでしょ?」
〔!!〕
「「「!!」」」
徹くんだけではなく、聞こえている月斗達も驚く。
「『トカゲ』の術に分類されるほどに完成度を上げられると、キーちゃんのひと鳴きでも打ち消せなくなるし、あの解く術式も効果ないと思う。あのグールもどきが練習用で、もっと強敵を作り出されないか。警戒すべきじゃないかな? 私の心配しすぎ?」
杞憂なら、それでいいのだ。
「
私の独り言のようなそれに、誰かが息を呑んだ。
「一応、私もキーちゃんで『トカゲ』の術を打ち消せないか、奮闘してみるから、解明も頑張ってね」
〔……うん、ありがとう。対策も解明も、頑張るよ〕
緊張を孕んだ徹くんの声。
『トカゲ』。最初に遭遇したのは、会合で別組織を迎え撃った日。
終えた直後に、襲い掛かってきた『トカゲ』の『式神』の群れ。それから、今回のグールもどきの群れ。
どちらも、徹くんがいた。
――――徹くん、
と口を開きかけて、閉じる。
元々50年以上前から『トカゲ』は、公安と追いかけては仕掛ける関係にあって、公安である徹くん”
二つの現場にいたのは、何も徹くんだけじゃないだろう。
そう思って言うことはやめた。
休み用の薬を渡すと、燃太くんが「明日の忘年会、参加するの? よかった。会えるね」と、ニコニコ。
「燃太くんも参加するんだ? 叔父さんと? それとも、お兄さんと?」
「聖也兄さんに誘われたんだ」
『紅明組』の次期頭として、参加する聖也の若頭と同行者、か。
冬休みに入って早々、再会だ。
公安もヤクザも、大物が集うホテルの巨大パーティーホール。
誘ってくれた徹くんのプレゼントでドレスアップ。
月斗が、全力でお洒落髪にしてくれた。
左サイドにカールした黒髪。煌めく大きなリボン。温かなボレロと、深い青色のドレス。
サーくんの幻覚は必ずしも全員に通用とは限らないと思っておくことにして、念のために優先生がサーくんもキーちゃんも隠す結界を張った。
私から離れなければ、サーくんもキーちゃんも、結界の冷気も感じ取られることもないはず。
そもそも、月斗と優先生と藤堂が護衛として固めるのだから、誰も冷気を感じることはないだろう。
「舞蝶ちゃん、ごめんねー。挨拶回りしないと」
「いってらっしゃい」
ひらひらと、手を振って名残惜しそうな徹くんを見送る。
橘も仲間外れにしてはいけないと誘ってきたので、一緒にご馳走を食べた。舌鼓。
大物揃いとなると、当然のように『夜光雲組』の組長がいた。
美の暴力のような美貌の組長は、側近の幹部を引き連れての参加。こちらに気付いていて近くまでやって来たのだが、ろくに声をかけられず、落ち込むウザい奴。
気まずさ全開の空気。
「組長。加胡さん達も、お久しぶりです」と、見かねた藤堂が挨拶。
「おう」と答える組長は、次に私の挨拶を期待した。
なので、そっぽを向いて、料理を食べ続ける。
ガン、とショックを受けるのが目に見えたが、アンタっていつも自分からは挨拶しないじゃない。
されたきゃ自分からしろって言うんだ。ああ、でも……上にいる立場だ。
下が挨拶してくることが、当たり前になっているのだろうか。いや逆か?
……私が下の者、か。うわあ。さらに腹立ってきたな?
「うっぜー……」と、ボソッと呟いてしまう。
それが届いたようで、びくと肩を跳ねた組長は、ズオォンと暗雲を被った。幹部達が、オロッと動揺する。
そんな中。
「父親に挨拶をすることが出来ないのでしょうか? 舞蝶お嬢様は」
と話しかけてきたのは、青灰色のスーツ姿の金髪リーゼントの男性。
誰かに似ているかと思いきや、後ろにむっすりと口を尖らせた青い少年。
……まさかの闖入者である。組長ファンの親子。敵意ある目で見てくる彼に対して、私は冷めた目で見た。
「初めまして。雲雀舞蝶と申します。青井
「
「挨拶も自己紹介も出来ないそっくりな親子ですね!」
と声を上げた。なんか言いかけたリーゼント刑事は、ポカンとしたあと、赤面する。
「他人の親子関係を、とやかく言う前に、ご自身と息子の礼儀を見直した方がいいんじゃないですか?」
「な、なんと?」
「だいたい、息子さんが私にちょっかいをかけない約束をしたというのに、あなたがちょっかいをかけるなんて、風間警部との約束を違えたも同然では? 約束も守れないんですねぇ。大した大人ですね、青井け・い・じ」
と、ひょいひょいと挑発。真っ赤になって、プルプル。
「お前! いい加減にしろよ!!」と、青井少年が我慢の限界。
「あら! 顎をかち割られても、まだちょっかいをかけるんだ? 完全なる約束破り!」
「っ! デカい面するなって注意しているんだ! ありがたく思え!」
「デカい顔? なんのことかしら」
「雲雀草乃介さんの娘だからって堂々としてるくせに、なんだ! その恩恵を与えてくれる人に対して!」
「ハッ! 一体誰が、あんな腑抜けの娘だと言い張ったのかしら? 私には、胸を張れるような肩書きでもないんだけど?」
フンッと鼻で笑い飛ばす。
「なッ!! なんてことを!」
「恩知らずだな!? 育ててもらっておいて!」
「育てて? あいにく私は記憶喪失だし……ここ三年は、使用人の手で育てられたので、金銭的な恩しかありませんし……親として当たり前の責務だと思うのですが、恩返しのために金銭を返せばいいのですかね?」
チラッと顔色の悪い組長を目にやる。
「知らないどうのの話だと、やっぱり事情も知らないのに、知った気でいて外野がとやかく喚くのやめてくれません? あなた方にとって、雲雀草乃介がどんなに偉大な男だとしても、私にとっては、娘に一度たりとも自分から挨拶が出来ない腑抜けの腰抜けな父親失格の男でしかありませんが?」
全然気付いていない青井親子に向かって、笑顔で毒を言い放つ。
「なんてことを!! あなたこそ、どんなに偉大かを知りもしないで!!」
「娘のくせに理解も出来ないのか!!」
「あーあー、犬がワンワンうるさいなぁー」と、飽きたのでやる気ない声を出してそっぽを向くと、そちらの方から紅葉兄弟がやってきたことに気付いた。
そのまま、割って入ると「条件呑んで負けたくせに、吠えんな燃やすぞ」と凄む聖也の若頭。
熱気に呑まれて恐れをなしたようで、途端に退散する青井親子。
「雲雀さん、舞蝶のお嬢様。こんばんは」と、ペコッと頭を下げる聖也の若頭。
「あ、ああ。聖也、秋の会合でも挨拶しそびれたな。久しぶりだ」と、急な登場に驚きつつ、組長も挨拶を返す。
「今日は、弟と参加したんですよ。初めてですよね? 弟の燃太です。お嬢様とはクラスメイトで、仲良くしてもらってます」
「初めまして……」
聖也の若頭に頭を掴まれて、でも、決して強引ではなく、そのまま頭を下げる燃太くんは、じっと組長を見上げた。
組長は怯んだ。
きっと私とクラスメイトだってことに。仲良しだってことに。
「舞蝶とは、友だちです」と燃太くんが口を開けば、びくっと震えた。
藤堂みたいに、呼び捨てに反応したのか、幹部達もギョッとした顔。
「それに恩人で、とてもお世話になっております」
「そ、そうなのか……」
聞いていないから、わからない組長は、こちらに目を向けてきた。
燃太くんが振り返ったので、ニコッと笑って見せて手を振る。
それに、ガン! とショックを受けた反応をする組長。
「こんばんは、燃太くん」
「こんばんは。お洒落だね、髪クルクル」
「髪クルクルって。月斗がやってくれたの」
と険呑な雰囲気から、和やかなやり取りに変更。
「月斗さんって器用なんですねー」
「いえいえ! お嬢様のためなら!」
と、ほのぼの。
その横で「うちの燃太が元気になったのも、舞蝶のお嬢様のおかげです。俺達は舞蝶のお嬢様に大きな恩があります」と聖也の若頭が、組長に向かって笑いかけた。
「ところで、娘が絡まれているとわかってて助けないとは、厳しい教育方針のようですね」
ストンと、感情が抜け落ちた顔をして言う。
責めている物言い。ギクリと、肩を強張らせる組長達。
どんどんヘイトがたまるなぁ、あの人。
と、他人事に見るだけ。青井親子は例外みたいだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます