朝から何が起きている?

MERO

朝から何が起きている?

 長兵衛には3分以内にやらなければならないことがあった。


 先ほど起きたばかりの寝ぼけた状態で彼は起き上がり、ベッドから降りた瞬間に足に激痛が走る。


「痛っっっ」


 足元を見るとそこには画鋲がちらばっていた。

 その一つが彼の足の裏に刺さっていたのだ。


「なんで、こんなものを……」


 しょうがなく彼はそれらの画鋲を近くの箱に入れた。

 そうして寝室の扉を開けた瞬間、ドサドサと音がし、頭の上に衝撃が走り、長兵衛はひっくり返った。先ほど纏めてせっかく置いた箱の中身が飛び散った。


「いたたた……なんなんだよ……」

 

 見ると目の前には本が落ちている。部屋から続く廊下の脇には本が積み上げている。いくつかの山が崩れ、足元に本が散乱していた。俺は呟いた。


「やっちまった……」


 しょうがなく散らばっている本を集めて崩れた場所に積み上げる。


「ほんとになんなんだよ、ふざけんなっ!」


 先ほどの本が当たった頭の先をさすりながら朝から怒りを覚えて、廊下の先の扉を開ける。

 

 ガツン。

 

 何かがまた頭上にあたり、彼は気を失い、その場に倒れこんだ。

 失神から起きて目を開いた先の天井に文字が見えた。


――おはよう、おれ。今日もここまでこれたか、へぇやるじゃん。認知症は進んでない。手元のボタンを押して、今日を始めよう。

 

 そうだ、俺はすぐにやることを忘れてしまうんだ。


 長兵衛は自分が認知症であること、もしボタンを押さない場合、マンションのセキュリティがくることを思い出した。だから自分の怒りを利用してリビングに向かうように仕向けたのだ。


 メモには続きがある。


――早口言葉。3つ言え。言えなきゃ、負けだ。


「隣の客はよく柿食う客だ、生麦生米生卵、……んと……カエルぴょこぴょこ、三ぴょこぴょこ。合わせてぴょこぴょこ、六ぴょこぴょこ、よしっ」


 小さくガッツポーズをした。


 毎日が真剣勝負かつそれは遊び心であり、単なるルーティンワークの3分間。

 彼は手元のボタンを押した。今日の始まりだ。

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