だってよ

江戸文 灰斗

だってよ

 卒業だってよ。


 せいせいするよ。


 もう四十分もかけて、学校行かなくっていいんだってよ。


 もう母さんの作る弁当みたく、ぎゅうぎゅうギチギチの電車に乗んなくってもいいんだってよ。


 もうそよ風の中を、自転車で四キロも走んなくってもいいんだってよ。


 もう微睡みに包まれながら、先生のカタコト英語を聞かなくってもいいんだってよ。


 もう課題出してない教科の先生と、気まずくすれ違わなくってもいいんだってよ。


 もうクラス替えの、不安感を味わわなっくてもいいんだってよ。


 もう茹で上がりそうな暑さに、カッターシャツを濡らさなくってもいいんだってよ。


 もう昼夜逆転体内時計狂ったまんま、夏休み明けの実力テスト受けなくってもいいんだってよ。


 もう指の先が真っ赤になるような寒さを、わざと大きな声ではしゃいでしのがなくってもいいんだってよ。


 もう正月に友達んちに集まって、無理やりオールしなくってもいいんだってよ。


 もう春が来る度増える後輩に、緊張と期待の眼差しを向けなくってもいいんだってよ。


 もう後輩の成長や苦難に、一喜一憂しなくってもいいんだってよ。


 もうセーラー服の君を横目に見ながら帰んなくってもいいんだってよ。


 もう過ぎた恋をうだうだ思い出さなくってもいいんだってよ。


 もう授業後も教室残って、だべりながら文化祭の準備しなくってもいいんだってよ。


 もう体育祭の応援席で、キラキラ光るやつらのために声枯らさなくってもいいんだってよ。


 もうくだんない人間関係に悩んで、無駄にうまく立ち回ろうとしなくってもいいんだってよ。


 もう、もう、高校のことはなんにもやんなくってもいいんだってよ。


 なんだ、卒業するってこんなにやんなくっていいってことなんだ。


 なんだ、卒業するだけでこんなにできないことが生まれるってことなんだ。


 ポジティブになんかなってらんねえよ。

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だってよ 江戸文 灰斗 @jekyll-hyde

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