朝は忙しなく

金谷さとる

朝は忙しなく

 おれには三分以内にやらなければならないことがあった。

 雑に布団をあげ、携帯片手に朝の準備。申し訳程度の洗顔に着替え。どっかで『三十秒で支度しな』ってセリフを思い出すが無理無理無理と叫びたい。

「おはよう。タイくん」

 キッチンで朝食の支度をしているおかあさんがにこにこしている。

「おはよう」

 美味しそうな匂いに鼻をひくつかせればなお笑ってくれる。

「おはよ。雑すぎは二度手間じゃない?」

 呆れた口調の姉におれの気分はちょっと下がる。

「大丈夫だよ。ちょっとだけだし」

 チラッと携帯を確認する。あと三十秒くらいか。

 携帯をテーブルに置いておかあさんの準備してくれている朝ごはんトレーをテーブルに移動させる。

 姉は呆れているけれど、おかあさんは微笑ましく見守ってくれている朝の日課用に運びやすくしてくれているのだ。

 ミルクティに茹で卵。近所のパン屋の惣菜パン。コンロにかかっているミルクパン。

「ほうれん草とポタージュとコーン、どれがいいかしら?」

 今日はお味噌汁じゃなくてそっちか。

「ほうれん草で」

 待っててと言いながら携帯を指すおかあさんの姿に着信を確認。

「うわっ」

「慌てるんならもっと早く起きればいいのに」

「うるさいなぁ」

 ぽんっとアプリを起動させる。

『おはよう』『あれ?』『おーい』と猫キャラスタンプが連続している。

 おれも『おはよう』とスタンプを流す。

 すぐに着信がついておれもすぐ受ける。

『おはよう。タイくん! 今日も良い一日を!』

「おはよう。ネオン。今日も安全によい一日を」

『朝からタイくんの声聞けてもう最高の一日になるよー。大好きー』『朝飯時に迷惑かけんなよ。ネオン』『おにーちゃんうるさーい』

 仲良し兄妹でほっこりする。今日は妹ちゃんの参戦はなかったようだ。

『またね』と通話を切ったネオンからスタンプ爆撃が続き、ぷつりと途切れる。たぶん、ちゃんと食事をするように注意されたんだと思う。

 かわいいなぁと和んでいるとスープマグが置かれた。

「ありがとう。おかあさん」

「はい。あたたかいうちに食べなさいね」

 朝の三分は至福の時間に続く三分である。

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