勉強中の占い師

@ku-ro-usagi

読み切り

友人の知り合いが

占いの勉強中らしく

「占わせて欲しい」

と頼まれた

タダならいいかと思ったら

喫茶店でお茶も奢ってくれた

同じくらいの年の女の子だった

でも

肝心の占いは

「何度か死にかけてますよね

その度に亡くなったお父さんが助けてくれてます」 

だって

確かに結構な事故に一度あったけど

運良く助かったことある

重めの肺炎もあったな

確かに助かった

でもさ

うちのパパ

まだ生きてるんだよね

「パパを勝手に殺さないで欲しいなぁ」

なんて思いながら

でもただ神妙に聞いてた

だって彼女は凄く真剣だから

ハズレてるなんて言えなくてさ

友人には気を遣って

「まあまあ当たってた」

と嘘は吐いた

でも

それから一年ちょっと

20歳の誕生日に

母親に教えられたんだ

「20歳になったから教えるわね」

「あなたの実のお父さんとは死別なの」

「あなたが生まれて事故ですぐにね」

「途方に暮れてる時に

お父さんの友達、そう、今のパパがね

『お父さんの代わりに君とその子を幸せにする』

って言ってくれたのよ」

その事実にもびっくりしたけど

あの勉強中の占い師にもね

「あれ、当たってたんだ」

びっくりした

死にかけた時に生きてたのは

ラッキーじゃなくて

「本当のお父さんが助けてくれてたんだ」

って

慌てて友人にあの占い勉強中の女の子のことを聞いたけど

「同じ人は何度も占わないようにしてるんだって」

ってあっさり振られた

諦めきれなくて

何とかせがんだら友人通しての返事が

「30分5万で視る」

だって

「は?」

だよね

勉強中はお茶代まで払ってくれたのに

5万

学割で5万だって

馬鹿じゃないの

1ヶ月のバイト代だよ

それでも

それでもね

卒業旅行のために少しずつ貯めてた貯金の一部を下ろして

会ってもらった

次はもう二度と占わない条件付きで

今回は喫茶店じゃなくて

カラオケボックスだった

確かに周りには声は聞こえない

無理矢理アポを取ったし

彼女は

不機嫌だったり怒ってるかと思ったけど

前に会った時と同じでニコニコしてて

先にお金の入った封筒を渡すと

中を見て

「確かに」

と鞄にしまった

それで私をじっと見てきたから

正直に

本当は当たってないと思ったこと

でも誕生日に本当のことを知ったこと

などを話したら

「あの時は私も勉強を始めたばかりで何もかも手探りで……

そうだったんですね」

と私が熱心に会いたがった理由を聞き

ほっとした様に小さく息を吐いた

初めて会った時は

同い年で親近感もあったのに

今は何だかもっと年上のお姉さんに感じた

そして友人から少し聞いていたけれど

私が彼女自身に執着しているわけではないと解ったらしく

「お父様は悪いものからあなたをずっと守ってくれています」

「しばらくはまだ一緒にいるから安心しろって言ってます」

と小さく笑った

私は

(絶えずいるの?見てるの?普段の生活も?)

複雑な気持ちで曖昧に頷くと

私の気持ちを察したのか

「えっとですね

お父様は別に四六時中あなたの側にいて生活を見ているわけではなく

あなたが

『危険だ』

って時に

ふっと目を覚まして守ってくれる感じ

と言えばいいのかな?」

少なくとも彼女にはそう見えているし

そう聞こえると教えてくれた


父親のことだけでなく

私は会ってくれた事を含め礼を告げると

「せっかくだから」

と彼女自身に

私の先のことを少し視てもらった

そしたら

「一見

すごく魅力的な誘いがあるけれど

実のお父様も今のお父様も悲しませたくなかったら

断って欲しい」

と真剣な顔をしてアドバイスされた

何があるんだろう

そして

カラオケから出て別れる直前に

封筒をそのまま返された

「まだ勉強中の身だから」

この5万は

私の覚悟と決意を試すためのものでしかなかったからと

私はそれでも

「私はこれ渡す気で来た」

とかぶりを振ると

彼女は少し考え

「それなら代わりに

私のことを人に話すのはやめて欲しい」

とお願いされた

普通なら宣伝になるのにね

私が約束して封筒を受け取ると

「さよなら」

と手を振って見送ってくれた

封筒にはカラオケの室料代も入っていた

いつの間に

それからは

他の人には勿論

紹介してくれた友人にも彼女のことは聞かなかった


大学では

就活が始まって無事に決まった後くらいかな

大学の友達に誘われたんだ

すごく魅力的なバイト

二つ返事で受けようとした時に

あの彼女の言葉を思い出した

彼女が言っていたのは

もしかしたら

今の、この誘いの事

ではないのかもしれないけど

断った

友達も

「なんでー?」

って不思議がるくらい

そうだよね

でも

私は彼女を信じた

そして

誘ってくれた大学の友達はそのたった一度のバイトで


占い師の彼女を紹介してくれた友人とは

就職してからもたまに会っては遊んだり飲んだりしてる

私の25の誕生日を過ぎたばかりの頃

彼氏からプロポーズされたと伝えたら

「お祝いに奢ってやる」

と言われ

奢りの言葉でのこのこと釣られて出ていった日

友人は黒いスーツを着ていた

仕事はカジュアルでもOKなはずだから珍しいなとは思った

でも

それから1年間

たまに合う友人はいつ見ても黒い服を着ていた

私は何も聞かないし何も言わない

26の誕生日をしばらく過ぎて会った時

久しぶりに黒以外の服を着ている友人の姿を見た

私は数字に関する記憶だけは多少あるんだ

だから覚えている


29歳

夫に子供を預けて

忙しそうな友人と飲んだ時

初めて

あの占い師の彼女が亡くなったことを教えられた

もう数年前に亡くなっていた

やはりあの黒い服は

彼女のためにずっと喪に服していたらしい

「婚約の報告の後には、言えなかったよ」

と言い訳されたけれど

なんとなく解った

友人はあの時

まだ彼女の死を受け入れられていなかった

黒い服を着て喪に服していても尚

死因は聞かなかった

友人が言わないことで察する

ろくな死に方ではない

少なくとも

友人が納得できる死に方ではなかったのだ

でも

「ね、自分のことって占えないの?」

「知らないよ、私は占い師じゃない」

「そうだけどさ」

そうじゃなくて

私の隠さないもどかしさに友人は

「あの子が

『自分自身のことを占ってみた』

とかは聞いたことなかったよ」

と答えてくれた

そうなんだ

でも

どうして占わないんだろう

「普通に怖くない?最悪な結果が出たらどうしようって」

確かに

でも

それで避けられる未来があるなら

私ならきっと

視ると思う

黙り込む私に

濃い目のハイボールを煽った友人は

「避けられない未来しか見えなかったら?」

空になったグラスに視線を落としてから問われた

「え?」

「あれだけ精度の高い占いをするんだ」

視えていてもおかしくなかった

と微かに揺れる視線

確かにそうだけれど

「でも未来はさ、無数の枝分かれしてるって」

よく聞くし

選択肢なんて

いくらでもあるはず

「そんなことはなかったら?」

私はその言葉に

友人の目をじっと見つめた

友人も私の目を見返し

「枝分かれなんかなくてただの決められた一本道で

途中でぶつ切りに

しかも到底納得できない死に方になるかもしれない未来を

見る覚悟ある?」

「……」

私には

ない

子供が生まれた今なら尚更


彼女も

怖かったのだろうか

自分の未来を視ることが


帰りに友人には謝られた

久しぶりの自由時間だったろうに暗い話をしたと

私は教えてもらえたことを感謝して別れた

家に帰ると

「ママと寝るって聞かなくてさ」

夫と夫に抱かれながらこちらに両手を伸ばす娘

娘を抱き寄せると

「おじいたん」

と娘が呟く

そう

そうなのだ

あの時

彼女は1つだけ嘘を吐いた

父親は

私に危険が迫った時だけ目を覚ますと言っていたけど

娘と2人きりの時や

こんな風に私が夜に一人で夜道を歩く帰りなど

娘が私を見るとわりと頻繁に

「おじじ」

「おじいたん」

と呟くのだ

どうやら

危険が迫らなくても割りと普段から近くにいるし

そばに居てくれるらしい

だから

「おじいちゃんいるの?」

聞いてみれば

「いる、ニコニコ」

そう

ならよかった

今日もありがとう、お父さん


続けて私は思う

願わくば

彼女も

どこかで

笑ってくれていればいいと

次に生まれ変わる時は

何も

何も視えない人としてこの世に生を成すようにと

ただ

願うだけ








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