二人の戦士
それからというもの、二人の戦士は
「ボクがいつも使っている香水のメーカーが、ボクのスポンサーになったんだ。負けるわけにはいかないね」
風花は不敵な笑みを浮かべ、己の胸元に苺の香りの香水をかけた。
「あーしは半導体のメーカーを背負っているんだ。とびきりのブランド価値を持つメーカーをね」
そう切り返した
「毎日毎日、よくも飽きが来ないものですね……」
そんなことを呟いた彼女は、己の手元にメロンソーダの缶を生成した。彼女はプルタブを開け、その中身を少しずつ飲んでいく。彼女一人が物静かな雰囲気を醸す中、風花たちは相変わらず全力をぶつけ合っている。そんな二人を取り巻く観衆は、次々と大声を張り上げる。
「頑張れ! 環奈!」
「負けるな! 風花!」
「やっちまえ、環奈!」
両者ともに、それぞれの支持者を持つようだ。風花たちはほぼ同時に拳を突き出し、クロスカウンターを決めた。頭部に襲い掛かる振動により、二人はほんの一瞬だけ目眩を覚える。それでも彼女たちは体勢を立て直し、殴り合いを続行する。
「良い拳だね、環奈」
「ふふっ……やっぱりあーしを楽しませてくれる戦士は、風花だけだよ」
「そりゃ、どうも!」
一発、また一発と、強烈なジャブやストレートが炸裂していく。血と汗を流しながらも、二人の戦士は依然として嬉々とした笑みを浮かべている。そんな彼女たちの有り様を前にして、観衆は度肝を抜かれるばかりだ。
「ありゃ、まるで修羅同士の争いだな」
「戦うことを心から楽しんでいる顔だな。血を流す瞬間さえも愛おしいと言わんばかりの……屈託のない笑顔だ」
「どっちも降参するようなタマには見えないな。いずれ、あの二人の戦いでどちらかが死ぬんじゃないか……?」
観客さえも手に汗を握る戦いは、あまりにも壮絶なものであった。こうして風花たちの争いが繰り広げられ、数分が経過した。両者ともに重傷を負っており、肩で息をしている現状だ。おそらくこの戦いは、最後の一撃を当てた方が勝利するだろう。
「決着を、つける!」
風花は渾身の力を籠め、前方に右ストレートを放つ。環奈はその拳の下に潜り込み、それからアッパーカットを繰り出した。顎に強力な一撃を受けた風花は、吐血しながら後方へと倒れた。そんな彼女を見下ろしつつ、環奈はカウントダウンを始める。
「十、九、八、七……」
カウントが進んでいく中、風花は震える手足に力を籠めた。それでも彼女は、自力で立ち上がることすら儘ならない状態だ。
「六、五、四……」
残された時間は、後三秒である。風花は息を荒げつつも、眼前の強敵を睨みつけている。このまま立ち上がれなければ、彼女の敗北は目の前だ。
「三、二、一、零」
――環奈の勝利だ。彼女は手を差し伸べ、風花が立ち上がるのを手伝った。白熱した試合を終え、両者ともに清々しい微笑みを浮かべている。
「次こそは負けないよ、環奈」
「望むところだよ、風花!」
そんな思いを口にした二人は、観衆に見守られながらフィストバンプを交わした。
「風花! 風花! 風花!」
「環奈! 環奈! 環奈!」
戦士たちが戦っていた路上は、黄色い声援に包まれた。
そんな光景を前にして、由美は不穏な一言を呟く。
「次に選ばれるのは、あの二人かも知れませんね……」
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