74:時間調整
私は現実世界に戻りこれからまた2日程度時間調整をすることにした。そうすればちょうど異世界では夕食時の時間になる想定だ。ちなみにお爺さんの腕時計はハンカチで包んで宿屋の部屋の貴重品入れに収納して鍵をかけておいた。
現実世界で最初に動物の本を開いた。前回は地球で言うところの哺乳類や大型モンスターが記載されていたが、今回は爬虫類に関して記載されており最後の方に少しだけ魚が掲載されていた。ちなみに三冊目が最後で昆虫に関する本のようだ。
まずは黒大トカゲがいないか探してみると、後半のページで出てきた。描かれた絵をみるとまるでオオサンショウウオそのものだった。いつも大きさ比較のための人の絵が描かれており、それによれば成人男性の1.5倍程度の大きさのようだ。
目は退化していてほとんど見えないが動物が発する熱や音に反応するとのことで、動物が活発に動いている間は近付かず、睡眠中などで動かない時に音もなく近づいてきて噛んで猛毒を注入し、完全に動かなくなってから捕食すると記載されていた。
私の場合、眠くなったら現実世界に戻って布団で寝るので全く問題なさそうだった。念のため食事休憩の時も必ず現実世界に戻ることにしよう。
それから鉱石に関する本を開き黒水晶について調べてみると、魔石に用いるのに非常に適した鉱石であるとの説明が書かれていた。とりわけ産業技術が発展した中央大陸の大きな町では必需品のようで、主に生活魔法を封じて利用するとのことだった。
純度が低く小さい黒水晶は街頭などに使い、純度が高く大きな黒水晶は、莫大な熱や光の魔法を封じ込めて大型機械の動力源や大型建築物の空調や照明などに使用されるとのことだった。
魔石を動力源とする大型機械というのを目にし、これはいかにも異世界モノに出てきそうな代物だぞとウキウキして、やはりいつかは中央大陸に行かねばと思った。
次に歴史の本を読んで学ぶことにした。前回最初の歴史Iを途中まで読んだ時、この町が超古代遺跡が数多くあることから恐らくここが人類文明発祥の地であるという事を学んだ。
それから長い年月かけて古代人はこの地の資源を取り尽してしまったために環境破壊が進んで、他の地域へと進出していったと書かれていた。
そうしてまた長い年月をかけて古代文明人達は移動先の地域に古くからいた先住民と、時に争い、時に和睦し、少しづつ文化や産業技術が各地へと広がっていったとのことだった。
そして今から1千5百年程前に、遥か遠く北の大海原のその先に異世界人は巨大な大陸を発見した。
かろうじて海を渡った冒険者達が見たのは灰色の肌をした後に魔族人類と呼ばれる者達や見たこともない生き物が多数生息する暗黒大陸だった。
人類と魔族人類は敵対したが、大海原に遮られているため散発的な戦闘は今なお継続しているが、全面的な戦争状態にはなっておらず、局所的に一部の地域では交流や交易も行われた。
人類側からは産業や農業などに関する技術や知識を提供し、魔族人類からは魔法に関する技術や知識がもたらされた。またその間の長い年月で人類と魔族人類で結ばれた者達もおり、混血人種もわずかに誕生した。
さらに実に興味深い事として、この世界では「国」という概念がなく、人々が集まる最大単位は「町」でそれより下は「村」があるだけだった。
そのため国家間の戦争はなく、あるのは町同士の領有権をめぐる戦争だった。かつては奴隷や身分制度による大きな差別社会があったようだが、今は単純に腕力、能力、財力による貧富の差があるだけで、社会システムとしての差別は表面上はなかった。
これによりかつての王族や貴族といった身分は今となっては存在せず、社会と経済と人々を統治する能力が認められた人間が町長として町の運営を管理した。
今現在そうした町が500以上あり、その中でも東西南北各地で最も大きい町をそれぞれ、東の大町、西の大町、南の大町、北の大町と呼び、それら4っつの町は四大大町と言われていた。
当然中央大陸以外にも大小様々な島があるが、中央大陸に比べれば比較にならない程小さく、やはりそこでも人々が多く集まり暮らしている場所は「町」単位で呼ばれていた。
以上、要約するとあっという間だが、この間しっかりと分厚い本を読み続けると同時にスマホで写真に撮って、大量の画像をタブレットPCに移動させて、本ごとに整理してファイル分けしたので2日間まるまるかかった。
今回はちゃんと肉やナンに似たパンをしっかり確保しているのでその間の食事に不自由することはなかった。ポルルが赤ちゃんタイガルに飲ませたモフモフのミルクやチーズやバターも最高に美味しかった。これは定期的にリピートしよう。
そうして2日後の自分時間の生活リズムの夕方と異世界時間の夕方を合わせて異世界に戻った。
貴重品入れの中からお爺さんの腕時計を取り出して時刻を確認すると現実世界に戻った時から5時間程経過しており、まさに狙い通り間もなく夕食の時間帯になろうとしていた。
早速お楽しみの高級料理店に行って夕食を食べに行く途中、宿屋の受付カウンターで呼び鈴を鳴らすと宿主のウォルゼル婆さんが出てきた。
「アンタかい、何だね?」
「はい、明日朝から依頼でダリウム大洞窟奥に行くので何日か戻って来れないかもしれません」
「ほう、あの洞窟かね、あそこは真っ暗で何も見えなくてとても深いことで有名だ、アンタ一人で大丈夫かね?」
「はい、今日道具屋で暗闇でも見える眼鏡を買ってきました」
「そうかね、それならまぁ問題ないかもしれんね」
「それで、ポルルには赤ちゃんタイガルに名前を付けてくれって言われてたんですが、名前を決めたので伝えておいてくれますか?」
「分かったよ、それでなんて名前だい?」
「トラっていう名前に決めました、私のいた村ではタイガルのことをトラって言います」
「そうかね、それは呼びやすくて覚えやすくていいね、しかもなんとなく合ってる気がする、アンタの村で呼ばれていた言葉なだけあるね、分かった、ポルルには伝えておく」
「はい、それじゃ私は食事に行ってきます」
「あいよ、アンタ・・・まぁ問題ないとは思うが、絶対生きて帰っておいでよ、でないとポルルが凄く悲しむ」
「はい!絶対に死んでも必ず帰ってきます!」
「ガッハッハ!そりゃぁいい!」
こうしたやりとりの後、私は宿屋を出て高級料理店へと向かった。
2日ぶりの高級料理店で、しっかり野菜と穀物もおり交ぜて栄養バランスを考えてもらった絶品冒険者料理に舌鼓を打ち、私の自炊料理とは遥かにレベルの違う最高の料理を味わって大満足した。
そして宿に戻った後はいつものルーティーンで寝る前の支度を整えて、2日ぶりにポルルが干してくれたベッドに入って至福の眠りについた。
明けて翌朝、ベッドの上には私の匂いがついた靴下と下着のTシャツを置き、枕の上には10デン硬貨を置き、装備を整えて宿屋を後にした。
まずは飯屋に行って朝食を食べて弁当を二つとナンに似たパンを買い、隣の肉屋に行って肉を買い、近くの野菜と果物の店に行ってジャガイモやニンジンやタマネギやキャベツに似た野菜と、良く分からない果物をいくつか買って大門へと向かった。
大門では門番から今回は何の依頼だと聞かれ、北東のダリウム大洞窟奥にある黒水晶を取ってくると応えるとやはり「一人で行くのか!?あそこは真っ暗で何も見えないぞ!いくらタダノでもそりゃ危険だ」と言われて、これまでと全く同じ説明をして納得してもらった。
そうして私は北東のダリウム大洞窟に駆け足で向かうことにした。飛ばせば洞窟入り口までは1時間半といったところだった。
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