絶対なる書
零二89号
予言書
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。それは近所の公園のベンチに座ってひらがなのあ行とか行を言うこと。
「あいうえお、かきくけこ」
(くそ、この本さえなけりゃ……)そう思いながら手に持った青い本を睨み付ける。
事は数日前に遡る―――――
「なあ、これ届けるべきかな?」
そう言いながら
「まあ、届けるべきだろうな、けど……」
俺は本に白文字で書いてある言葉を読み上げる。
「絶対なる書、って明らかな中二病ノートじゃんw」
「けど中には何も書いてないぞ?」
「これから書こうとしてたんだろ多分」
「んじゃ俺はこれ警察に届けてから帰るわ」
「オッケー、んじゃまた」
「また明日ー」
別れを言った後、俺は自分の家に帰った。
ー翌日ー
日曜日なので家でバラエティー番組を見ていると隼人から電話があった。
「
それは隼人の彼女で俺の友達、
「綾乃か?どうしたんだ?」
「その……実はね」
綾乃の口から語られた事に、俺は絶句した。
「隼人が……死んだ?」
綾乃が言うには、隼人は自分んちの庭で死んでいたらしい。更には、警察が言うには隼人は窒息死していたらしい。
「んなことあるわけ……」
仮に死んだとしても自分んちの庭で死ぬなんて不自然だ、何かの冗談だと思った。
それになぜ窒息死?自殺とかなら安楽死を選ぶのがいい気がするが。
「本当なの」
電話越しでも分かる、深刻さ。それは隼人の死が本当だという事を物語っていた。
「そう、か……」
綾乃に葬式の日程等を聞いた後俺は電話を切った。
その後、ショックで数分間呆けているとベランダに何か青いものがある事に気付く。
「これは……本?」
それは、昨日隼人が俺に見せた絶対なる書と書かれた本だった。
「何でここに……」
ここはマンション5階のベランダ、こんな本が落ちてる訳がない。
「ん?なんか書いてある?」
中身を覗くと、そこには【タスク:1から10の数字を数える】と書いてあった。
「何だk」
次の瞬間、俺は唐突に数字を数えたい衝動に駆られた。
「1,2、3、4、5、6、7、8、9、10」
10まで数えると、衝動は一瞬で収まった。
本を見てみると、そこには以下の事が書いてあった。
【チュートリアル完了、これより本番に移行します】
「?」
困惑していると、突然開いているページに文字が浮かび上がった。
「タスク:3回拍手をしてください」
「何なんだこれ?」
よく分からず本をテーブルに置いて二分後、突然息が苦しくなった。
「な……ん……で」
訳も分からず苦しんでいる時、本に書いてあった内容を思い出す。
「3……回」
一か八かで3回拍手をすると息苦しさはあっという間になくなった。
「まさか……いやまさかだよな」
数日後、俺は隼人の葬式を終えてから色々本について調べた。
まず、本には幾つかルールが書かれていた、それは下記の通り:
一つ、所有者がいない状態でこの本を最初に手にしたものが所有者となる
一つ、タスクは絶対である
一つ、タスクは三分以内に完了しなければならない
一つ、タスクが未完了の場合、その時点での所有者は死ぬ
一つ、タスクを50回やれば、本の所有者ではなくなる
ここで言うタスクとは、本の開いたページに浮かび上がってくる文章の事を指しているようだ。
これは俺の推測だが、隼人はこのタスクとやらを完了できずに死んだのだろう。
そして、ダメ元でネットで絶対なる書について検索していると、一つの昔話に辿り着いた。
【その昔、予言者を名乗る男がいた。男は予言書を使って何度も予言を的中させ人々は何か不安があれば男の予言を頼るようになった。ある日、男は王に呼び出され戦争の勝敗の予言を聞かれた。
男は正直に自身の国が負ける事を告げた、王や側近は幾度も聞いた、男は幾度も言った、負けると。結果男は虚偽を言っているとして処刑された。
その後、男の怨念が予言書にこもり、予言書は書かれた事を人々にやるよう強制し、やらなければ人を殺す悪魔の書と化した。】
(……似すぎてる)
その昔話に登場した予言書の特徴が、青い本と似通い過ぎていた。
(まさか本当なのか?こんな不思議過ぎる事が起こり得るのか?)
だが事実、俺ん家のテーブルに置いてあるのは、書かれた事を三分以内に完了しなければ死ぬ本だ。
「……燃やすか」
俺は決心した、この本を燃やす決心を。
だが最悪な事が起きた。本を燃やそうとすると本が【戻れ】や【本をテーブルに置け】のような、燃やせないタスクを出してきた。
「参ったなあ」
本がタスクを提示するのは不定期で数日連続で出すこともあれば2、3日間明けてから出すこともある。
捨てる事も、燃やす事も出来ないので俺は諦めてタスクを出される度にタスクをやる事にした。
そうして2週間後、コンビニでスナックを買っている時に21回目のタスクが出された。本を近くにない場合、脳内にタスクが流れ込む仕組みのようだ。
【ジャンボチョコを開けずにゴミ箱に入れろ】
ジャンボチョコとは今俺が手に握っている大きな板チョコだ。
(まずいまずいまずい!)
俺は急いでレジに行き、店員に早く会計を終わらせてほしい旨を伝え会計を済ませた。
この時点で二分経過、残り一分かつ息苦しくて焦ったが何とかゴミ箱を見つけて
ギリギリジャンボチョコを捨てる事が出来た。
(今みたいなのも出てくんのか……)
俺は今の様なタスクが流れてくるか警戒しながら家に帰った。
それからも様々なタスクを出された。
走れとかパンチしろとかシンプルな物もあれば、走った後に跳んで腕立て十回しろとか少し複雑なものも出された。
だが何とかそれら全てのタスクをこなして残すは最後の50回目のタスクを残すのみとなっていた。
だが……
「?」
出ない。何故か50回目のタスクが出てこない。
1年経っても、2年経っても、5年経っても、20年経っても、出てこなかった。
その内私は結構して、一人の子供が出来た。
大手企業にも転職し、全てが幸せだった。
だがそれは束の間の物だったいう事を私は理解した。
仕事を終えて、家に帰った。
そこには楽しそうにテレビを見ている涼平の姿があった。
「ただいまー」
「パパお帰りー」
次の瞬間、脳内に一つの文章が流れ込んで来た。
【タスク:涼平を殺せ】
それは、何年も前に失くした絶対なる書が提示してきた最後のタスクだった。
「……は?」
やれるわけがない、何が好きで自分の子供を殺さなくてはならないのか。
私は涼平に見られないように自分の部屋に向かった。
部屋の椅子に座り、適当な紙に遺言を残しながら死の時を待った。
一分経過、少し息苦しい
二分経過、かなり息がしづらくなってきた
三分経過、私は死んだ。
(ああ、迎えが来たようだ)
私はゆっくりと目を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
「ねえママ、パパはどうしちゃったの?」
息子が問いかける
「パパはねとっても今まで沢山頑張ったから、今はとっても楽しい所にいるのよ」
そうよ、あの人は今とっても楽しい所にいるのよ、だって――――――
あんなに幸せそうな顔で亡くなったんだから。
◆◇◆◇◆◇
予言書は、絶対です。
何人たりとも予言書からは逃れられません。
予言書は、絶対です。
絶対なる書 零二89号 @No-0089
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます