ノゾキミ(月光カレンと聖マリオ20)

せとかぜ染鞠

ノゾキミ

 怪盗月光カレンには3分以内になすべきことがある。

 盗むのではない。返すのだ。散逸した日記のうちの7冊を返却したい。IT企業社長宅へ忍びこみ,日記を返すついでに娘の様子を密かに確かめるのだ。様子をこっそり窺う? つまり盗み見する? ノゾキミするなんぞやはりコソ泥だ!

 笑いたくば笑え。養女の暮らしぶりが気になって仕方ない。泥棒風情を親とした娘の行く末が案じられ,その生活を盗視するというのが実情だ。

 記憶障害のために自らを7歳児と思っている 三條さんじょう公瞠こうどう 巡査がテーマパークのダンスタイムで踊っている3分間に全てを終える必要がある。カレンの宿敵でマリオの信者でもある三條にとって叔母に見えている俺は彼をダンスへ送りだしたのちパーク所有者の社長宅に侵入した。

 社長の魔導まどう招鬼まねきが誰かと話している。相手はキヨラコだ。

「でも人が殺されたって――」

「出鱈目を吹きこまれたのさ。シスター 聖マリオは 月光カレンだ ,ギャングだからね。あいつは大噓つきだよ」

「マリオさまの悪口はよして!」キヨラコが色つき眼鏡を投げすてて眦を決した。

「許すの?」魔導が接近してキヨラコの両腕を抱く。

 気安く触れるな!――天井裏から飛びおりかけた。

「まさか!」キヨラコが叫ぶ。「盗人の正体を隠したまま聖人の皮をかぶって私を育てた人よ! しかも女の身に扮した状態で!」

 俺はウォールを這ってキャビネットまで辿りつくと,ほかの日記帳のそばに一度は返した日記7冊を再び懐中にしまった。住居侵入が知れたら更に非難される。

「身も心も深手を負った私を助けてくれてありがとう」キヨラコは魔導を見あげた。「気持ちに応えられるか分からない。ただ,あなたへの思いは特別かもしれない」

 魔導宅を逃げだす。男の悲鳴が後を追う。奴への攻撃をゴキブリたちへ頼んでおいたのさ。

「みんな,ママやパパや大好きなあの人を誘って一緒に踊ろう♪」テーマパークに弾んだ声が響きわたる。タイムリミットが迫っていた。

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