第十七話 同じ人間
――こうしてダイヤを騙して空き家を売った商人は許された。
解放された商人を町の外れまで見送る役はゲオルグが引き受けたのだが、どうしてか青髪の三女――サファイアもついてきていた。
しばらく進んで人通りがなくなると、ゲオルグは先を歩かせている商人に聞こえないように、サファイアに訊ねる。
「なぜついてきた?」
サファイアはゲオルグの問いかけに、少し間を置いてから口を開いた。
やっておきたいことがあり、そのために同行したと。
並んで歩いている二人は顔も合わせず、そのまま前を見ながら会話を続ける。
「ルヴィはやり過ぎだと思いますけど、ダイヤ姉さんのやり方も甘いです」
「それには賛成だ。ならあんたは――」
「サファイアでいいですよ、ゲオルグさん」
言葉を遮られたゲオルグは、名前で呼んでいいと言われて彼女に再び訊ねた。
殺しも許すのもダメだというなら、一体どうするのが正解だと思うと。
ゲオルグとしては殺すことはしないまでも、何か罰を与えるべきではないかと、彼は自分の考えを述べた。
「ダイヤは金のことは気にしてないようだったが、やはり少しずつでも払わせたほうがいいだろう」
「ゲオルグさんとは気が合いそうですね。ワタシもおおむね同じことを考えています」
ゲオルグはサファイアの含みのある言い方に、眉をピクリと動かした。
彼としてはダイヤには言わずに、商人が毎月この町へと来て、少額ずつ騙して取った金を返させようとしていたのだが。
どうもサファイアには別の意図があったようだ。
だからこそ彼女は、わざわざこうして姉を騙した男の見送りなどについて来ているのだろう。
そう考えれば納得がいく。
表情こそ変わっていなかったが、サファイアはゲオルグが気になっていることに気がついたらしく、彼のほうへ顔を向ける。
「どんなクズにも使い道はあります。金が返ってこないなら、できることをやってもらうだけです」
「できること?」
思わずオウム返しをしたゲオルグに、サファイアは答えた。
詐欺師とはいえ仮にも商人を名乗っているのなら、物資の調達や流通に関しての情報に詳しいはず。
それは現状でもっともゴゴの町に必要なものであると、サファイアは笑みを浮かべて言った。
だがゲオルグは、彼女の目が笑っていないことに気がつく。
まさかこの青髪の少女は、商人を脅して町に必要なものを持って来させるつもりかと、彼は思った。
「いきなり失礼なことを訊くが、サファイアは今年で何歳になる?」
「十五歳になります。ついでに言うと、ダイヤ姉さんが十九歳、ルヴィがワタシの一つ上で十六歳、そして可愛いエメラが十歳です」
「若いとは思っていたが、まさかダイヤまで十代か」
このゴゴの町ある大陸には二つの大国――ランペット王国とコルネト王国がある。
その両国が定めている成人の年齢は、男なら十四歳で女なら十二歳だった。
貴族でいえば結婚できる年齢で、平民でもそれは同じであった。
しかしそれはあくまで国が決めたことであり、ゲオルグから見れば、十代というのはまだまだ子ども。
オルコット姉妹と歳の近いギュンターと比べてもずいぶんと大人びているように感じ、これまでの彼女たちの人生がどのようなものだったかを考えてしまう。
「それでも四女はのほうまだ年相応に見えるか……」
「なにか言いましたか?」
「いや、どうやら俺はとんでもない娘たちに手を出したのだなと、そう思ってな。特にサファイアは別格そうだ」
「褒め言葉と受け取っておきます。あながち間違ってもいないので」
再び顔を前へと向けて、サファイアは言葉を続けた。
彼女にとって家族以外はどうなろうと構わないし、姉妹を守るためならば喜んで世界を滅ぼす。
だからゴゴの町が発展しようがしなかろうが自分には関係のないことだと、サファイアは淡々と口にした。
「矛盾していないか? サファイアは町の未来について姉妹らと考えていたのだろう?」
いきなり何を言い出すんだと思いながら、ゲオルグはサファイアの言っていることがおかしいと注意した。
事実、彼女は町のために、商人に物資などのことを頼もうと動いている。
それにダイヤから聞いた話では、サファイアは住民たちとも仲良くやっているようで、今の発言がどう考えてもゲオルグが知っていることと結びつかなかった。
不可解そうにしている彼に、青髪の少女はニッコリと
「ダイヤ姉さんもルヴィもエメラも、三人ともゲオルグさんやこの町の人たちのことが好きになったんです。みんながそうなったのなら、ワタシもそれに合わせないと不味いでしょう?」
「よくそれを俺に話したな」
「これまでのゲオルグを見てきて、信頼できると思ったんですよ。あなたはワタシと同じで、大事なものを守るためならどんなことでもする人だって」
「その言葉……今度は俺が褒められたと思うべきのようだな」
それから二人は、商人が町を出ていくのを見送った。
去り際にゲオルグは、ダイヤから騙した取った金を返すことを商人に約束させた。
そして案の定サファイアは何かを耳打ちし、商人は震えながら頷いていた。
よっぽど怖いことを言われたのだろう。
商人は青ざめた顔で、何度も首を振って涙目まで浮かべていた。
サファイアのやり方はどうあれ、こうしてゴゴの町は安定した
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