1-5

儀式が終わり、奥へと下がる。

伶龍は威宗に連れられて着替えに行ったようだ。


「……なんなの、アイツ」


私も巫女服から着物に着替えながら、つい愚痴がこぼれる。


「威勢のいい刀だったね」


一緒に着替えている祖母は愉快そうに大笑いしているが、あれは威勢がいいどころではない。


「威宗のときもああだったの?」


目覚めていきなり大勢の人に囲まれ、挨拶しろだなんて言われても困るのはわかる。

しかし、他の刀もああなのだろうか。


「いや?

最初はぼーっとしてたが、周りを見て理解して、きちんと挨拶したよ。

蒼龍も同じだった」


「だったらあれは、なんなのよ……」


いきなり国のお偉いさんたちに喧嘩売ってさ。

ありえない。


「自分の気持ちに素直なんじゃないかい?」


祖母は思い出しているのかおかしそうに笑っているが、こっちは笑い事じゃないのだ。


「まあ、頑張って仲良くしな」


着替え終わった祖母が慰めるように私の肩を叩く。

しかし私の心はどんよりと重くなっただけだった。


儀式のあとは宴の席が設けられる。


黙って料理を口に運びながら、隣に座る男、伶龍に視線を向ける。

黒スーツを着るとますます彼はヤクザに見えた。


「あ?」


私の視線に気づいたのか、彼が睨みつけてくる。


「……なんでもない」


そろりとまた、自分の前のお膳へ視線を戻す。

ちょっと見ていたくらいであんなに睨まなくたっていいと思う。

これからパートナーとしてやっていくわけだし。


「ああ、くそっ。

苛々する!」


伶龍が悪態をつき、会場内が一瞬静まりかえった。

けれど彼はかまうことなくネクタイを緩め、シャツのボタンを外した。


「なんでこんな格好しなきゃいけねーんだよ」


さらに立て膝にして足を崩す。

いくら無礼講の席でも、これはない。


「ちょっ、伶龍」


小声で彼の脇腹をつつき、もう少し行儀よくするように注意する。

というかそもそも、威宗からさっきいろいろ聞かされているはずなのだ。

なのにこれって。


「あ?

俺はこういう、かたっくるしいのが苦手なんだよ」


彼は証明するかのようにガシガシ頭をかいているが、そういう問題ではない。


「それにいつまで、これに付き合わなきゃいけないわけ?

もー、我慢の限界」


「うっ」


伶龍の気持ちはわかるだけに、なにも言えなかった。

宴が始まってから誰も彼もが私たちを見てひそひそ話していた。


――史上最低の刀。


――ハズレ。


――この先が思い遣られる。


私だってそれには同意見だが、人に言われるのは腹が立つ。

それに伶龍を選んだのは私だ。

まるで私が無能と言われているようで落ち込みもした。


「おい、おまえら」


伶龍が宴席中を睨み渡す。


「俺は最強の刀だ。

あとで俺を貶したこと、後悔させてやるからな!」


右頬を歪めて伶龍が不敵に笑い、誰もが息を呑む。

けれど私はこのあと、さいきょうは〝最強〟ではなく〝最凶〟だったと知る。

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