おトイレ出来るかな?
箱庭織紙
上手に出来るかな?君は出来るかな!?
小学五年生・
それはもちろん脱糞である。トイレに座り、ズボンを脱ぎ、モロにちんこを出しての脱糞である。
しかし今、駿蔵の前には弟と妹が立ち塞がっていた。
もちろん、この場で駿蔵に脱糞させるためである。弟と妹は、駿蔵に恥をかかせることと下ネタが大好きなのである。だからこのような凶行に及んだ。
「「ゲヘへ、ここでお前はうんこを漏らすんでゲスよォ~ッ!!」」
弟と妹の言葉に、駿蔵は焦る。焦って汗も出る。尻にも汗が出て一瞬漏らしたのかと勘違いする。
駿蔵は何としてでも弟と妹を撃退し、トイレに駆けこまなければならなかった。しかしどうやって? 得意の柔道を使えば切り抜けられないこともないだろう。だが、背負い投げでもしたら肛門は間違いなく決壊する。運動は腹痛の大敵なのだ。
どう切り抜ける、どう撃退する、どう倒す。もはや弟と妹は駿蔵にとって『邪な敵』にしか見えていなかった。しかし駿蔵には、やはり切り抜ける手段がなかった。
もはやこれまで。駿蔵の頭に、そんな言葉が浮かぶ。それと共に、昔の記憶がどんどん逆流してくる……走馬灯もうんこと一緒に漏れるつもりなのだろうか。
『なぁ、駿蔵』
しかし、諦めて意識を手放そうとした時。ふいに、亡くなった祖父の記憶が蘇ってきた。
『お前も男だ。うんこを漏らしそうになる時もあるだろう……そういう時、決まって行く手を塞ぐ者達が現れる。そんな時の必殺技を教えてやる』
走馬灯から思わぬ掘り出し物が出てきた。駿蔵は鼻水を垂らしながらニヤリと笑う。それを見て気圧された弟と妹は、何故か駿蔵のパンツを脱がそうと飛び掛かってきた。能動的に、駿蔵にうんこを漏らさせようとしてきたのである。
しかし。
『うんこを間に合わせるための必殺技、それは……』
「
飛び掛かってきた弟と妹を、駿蔵は内股で避ける。その動きは、まるでジョロウグモのようだった。そのまま駿蔵はトイレに向かおうとする。
「「野郎、逃がすかよッ!!」」
弟と妹は駿蔵を走って追いかけようとする……が、次の瞬間。
「
駿蔵は内股で高速回転しながら、弟と妹を跳ね飛ばした。
「「ぐへあっ!!」」
壁に叩きつけられた弟と妹は、そのまま気を失ってしまった。
これで勝てる、駿蔵の顔に一筋の光明が差し込んだ。
しかし、トイレへ向けて走り出した次の瞬間。
「オイテケ……ウンコオイテケェ~~~~ァッ!!」
姉がリビングから四つん這いになって現れた。駿蔵は絶望する。
何しろこの姉、弟や妹よりも厄介な人物なのだ。最近、姉がハマっているのは『食糞ダイエット』。ネットでたまたま流れてきたのを見て「これだ!」と思ったらしい。それ故、姉は今猛烈にうんこを求めているのだ。
「そんなの、自分のうんこを食べればいいだけの話じゃねーかよ!」と思われるかもしれない。だが姉は、既に自分のうんこは食い尽くしてしまったのだ。だから今、駿蔵のうんこを求めている。
もはや姉は、うんこを求め続ける『うんこモンスター』になってしまったのだ。
「ウンコオイテケ~~~~ッ!! ジカノミダッ!!」
姉は目にもとまらぬスピードで駿蔵を捕まえると、その場で押し倒してしまう。
このままでは、姉に食べられてしまう。うんこを。
「グヘッ!! グヘェアッ!!」
内股的行動も押し倒されたら使えない。もう、駿蔵にはなすすべがなかった。
諦めて目を閉じる。駿蔵の頬に、一筋の涙が流れた。
ぐぎゅるるるるるるるるっ!!
突然、駿蔵の腹の中から轟音が響いた。それは腹痛を覚えた時に鳴る、あの轟音。だがしかし、駿蔵が今感じているのは『うんこが出ようとする動き』ではなかった。
瞬く間に駿蔵は姉の顎にパンチを食らわせ、自分の体が引きはがす。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ……」
「ナ、何故ダッ!! 何故漏レソウナノニ、ソンナ動キガ出来ル!?」
殴られてショックを受けたのか、ほんの少しだけ姉の言葉に知性が宿った。
そんな姉に、駿蔵は微笑しつつ答える。
「
「ナ、何ィ~~~~~~~~ッ!?」
腹痛が収まった駿蔵に、恐れるべきものなど何もなかった。流れるような動きで姉を背負い投げし、一本取る。
そしてそのまま、悠然とトイレに向かって歩き出した。
勝った、駿蔵は戦いに勝ったのだ。
しかし、余裕を持ってトイレに辿り着き、ドアノブを捻ろうとした時、駿蔵は違和感を覚えた。
ドアノブが、回らない。
ガチャガチャと何回回そうとしても、ドアノブが回らないのだ。
駿蔵は焦る。そして焦ったことで、再び腹痛が起こった。今度の腹痛は、まさしく「うんこを出すための腹痛」だった。
狂ったようにノブをガチャガチャとやる駿蔵に向けて、トイレの中から声が聞こえた。
「あ~すまん、今父さんが入ってるぞ~」
瞬間、漏れた。
漏れてしまった。
漏らして、しまった。
奇妙な安堵感と共に、駿蔵はその場にへたり込む。どうやらうんこは下痢に近かったらしく、茶色い濁流となってトイレの前に流れ出した。
今日は休日、仕事のない父は家にいた。
終わった。駿蔵の戦いは、完全敗北に終わったのだ。
「こッんなベタなオチッなのかよォッ!!」
駿蔵の大声によってやってきた母親は「アンタもう高学年でしょ!! なんで漏らすのよ!!」と呆れつつも怒り、いつの間にか回復していた姉は、駿蔵が漏らしたうんこをペロペロと舐めて喜んでいる。
駿蔵にとって、最悪の休日だった。
おトイレ出来るかな? 箱庭織紙 @RURU_PXP
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