独り言、カラスが鳴けば、いとをかし。
だるまかろん
独り言、カラスが鳴けば、いとをかし。
僕には三分以内にやらなければならないことがあった。
カップラーメンの蓋を開け、お湯を入れて三分待つ。三分以内の音楽をかける。洗濯物を洗濯機に入れ、スイッチを押す。三合の米を計って洗い、炊飯器に入れ、ちょうど三合の目盛まで水を入れスイッチを押す。急いで手洗いをし、ついでに顔を洗う。音楽が終了間近になったら、僕は既に切ってあるはずの長ネギをカップラーメンの上に添えて完成だ。
これを三分以内に行うことは、僕が部屋に戻ったときの試練である。僕は休みの日、布団から出られない日があった。
「ふう……。」
僕は今日、長ネギを添えることが出来なかった。時間がなかったからだ。僕は休日出勤と残業のため、睡眠時間を確保できていなかった。
僕が欲しいのは、もちろん金である。だが、時間も欲しいという欲張りな生き物なのだ。彼女や妻はいない。その代用品となるグラビア雑誌を見てカップラーメンを完食するだけだ。
「彼女が欲しいな……。」
僕は彼女が欲しいと思って、マッチングアプリをインストールした。何となく勇気が出ないため、特に登録をしないまま今日に至る。
「月額三千円か……。」
一か月で、彼女ができれば楽なのだが、僕には勇気がない。そして、カップラーメンを食べ終えた僕は、眠りについた。今日は土曜日で、土日祝日休みの僕の、貴重な休日のはずだった。
カァー、カァー、カァー
カラスが目覚まし時計となって、僕は目を覚ました。テーブルの上に突っ伏したまま寝ていたのだ。起きると首や肩が痛い。
「カラスが、僕を起こしたというのか。いとをかし。」
僕は急にそんなことを言う。こんな独り言を誰も聞く人がいないと思うと、さらに虚しくなる。
「あれ、何だろう。」
僕は元カノから連絡が来ていることに気づく。
「元カレ(僕の名前)くん、今日会えないかな。」
その文字を見て、僕は狂った。元カノから連絡が来るのは、久しぶりだった。
「復縁か……いや、無い無い。」
元カノと復縁なんて、ありえない話だ。僕たちが別れた理由は、僕の転職がきっかけだった。正直、僕は少し期待していた。もしも、よりを戻せるのならば、彼女を大切にしようと決心したのだ。
「いいよ、今日は暇だからね。今から、銀の鈴の最寄りのカフェへ行くよ。十二時でいいかな。」
僕は急いで彼女に返信を送った。
「分かったわ、十二時に銀の鈴の、あのカフェに行くね。一緒にランチしようね。」
そして、僕らは十二時に会った。彼女は、いつもミルクコーヒーと、ケーキを頼んでいた。二人で一緒に食べるためだ。今日は二人とも、遠慮をして、コーヒーだけ注文していた。注文したコーヒーは、僕らのテーブルの上に置かれた。
「実は、私……、結婚するの。」
どうして、こんなにも、現実は残酷なのか。僕の思考は停止した。だが、その、すぐに言わなくてはいけない言葉を思い出した。
「……結婚、おめでとう!」
そのあとの言葉は、浮かばない。それからの出来事はよく覚えていなくて、とにかく急いで会計を済ませた。
僕は、銀の鈴付近でプレゼントを探し、急いで、お菓子を購入した。羊羹やらクッキーやら、とにかく何に決めたのかも記憶にない。
「元カレ(僕の名前)くん、ありがとう!」
彼女の笑顔が眩しかった。駅の建物が、風流であった。そこに一枚の桜の花びらが、ひらひらと舞い降りて僕の顔についた。
桜の花びらがハートの形をしていて、僕は何となく、笑いながら帰宅した。
そうだ、きみの名前も、桜みたいな名前だった気がするな。恐らく、今日の僕は、桜のような恋模様をしていた。気づいたときにはもう遅かった。
独り言、カラスが鳴けば、いとをかし。 だるまかろん @darumatyoko
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