浦島太郎の子孫が現代を生き抜くその方法

ゼン

1

 翔太には三分以内にやらなければならないことがあった。追手が徐々に捜索範囲を狭めこの場に辿り着くまでに、この玉手箱をどうにかしなければならない。

 翔太は玉手箱に力強く巻かれた紐を渾身の力でほどいていた。


 実家の倉にある巻物に気が付いたのは一か月前の事だった。金目の物目当てに実家の倉に忍び込むと、なにやら仰々しい巻物が保管されていた。スマホ片手に中身を見ると、どうやら俺の祖先がカメを助けたお礼に竜宮城とやらに行ったらしい。信じがたい話だが、そうだとすればうちの一家がやたらとデカい屋敷を持っていることにも説明が付く。

 なにより親に勘当され、借金取りのヤクザに追われる羽目になった俺には願ってもない話だ。

 俺はすぐさま行動を起こした。数人のガキを雇いカメを虐めさせ過去の状況を再現する。

 「やい、カメコウ。頭を出してみろ」

 「君たちやめなさい。かわいそうだろう」

 芝居がかったガキの口調と自身の大根役者ぶりは酷かったが、すぐにカメがお礼に来た。

 「優しいお兄さん、どうかお礼をさせてください。竜宮城へご招待いたします」

 計画通りだ。喋るといえどカメはカメ、人を見る目なぞないらしい。

 竜宮城は凄まじさは筆舌に尽くしがたかった。旨い飯、旨い酒、良い女。この世の贅を尽くした歓待。天国というのはこんな場所を言うんだろうと思う。

 あぁ本当に天国のような場所だった。だが俺は段々と不気味に感じ始めた。だって可笑しいだろう?カメ一匹助けただけでこの歓迎。おまけにあいつら魚や貝も料理しやがる。そこらで魚が踊ってやがるのにだ。

 この竜宮城にはなにかある。正直このまま居続けてもいいかと思っていたがやめだ。俺は乙姫に帰りたいと申し出た。

 「承知いたしました。でしたらこちらの玉手箱をお持ち帰り下さい。ですが絶対に開けてはなりませんよ」

 こうして俺は玉手箱を入手した。何年ももてなした上に、こんな物までくれるなんて本当におかしな奴らだ。


 そうして今に至る。

 「はぁ…!はぁ……!」

 早くこの玉手箱を開けなければ。これさえ開けてしまえばあのしつこい借金取りもどうにかなるだろう。気づけばすぐそこまで追手の足音が近づいている。

 翔太は玉手箱に巻かれた紐を渾身の力で紐をほどき、玉手箱を開けた。瞬間、玉手箱から煙が立ち上り翔太を覆い隠した。


――――――――――――――*


 「おい翔太!もう逃げられねぇぞ!」

 大柄の男が勢いよく裏路地に飛び込むとそこには一人の老人が箱を抱えて座っていました。

 「……おいじいさん。若い茶髪の男がここに入ってこなかったか」

 「知りませんなぁ。ここにはずっと私しか居ませんでしたから」

 大柄の男は小さく舌打ちすると裏路地から去っていった。

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