26.王子様の事情
「小鳥ちゃん、先ずだけど、結果として今回は僕のせいで大変な迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない」
「えっ!? いえ、結果的になにもありませんでしたから、顔をあげて下さいっ!」
綺麗で可愛い焼き菓子とケーキに、お茶が並ぶ豪華過ぎるテーブルを尻目に、ルド様が深々と頭を下げるので私は慌てる。
皆の視線を容赦なく浴びながらルド様の馬車に乗り込み、しばし走った街中で案内されたのは巷で話題のカフェだった。
最近にオープンしたその店はオシャレな佇まいに、流行りの焼き菓子とケーキが堪能できると言うことで、数ヶ月待ちの人気店のはず。
人で溢れる店に着くと、店員さんがルド様の姿を見つけるや否やすぐに奥まった個室へ案内され、あっという間に並べられたお菓子とお茶の数々に圧倒されていた。
「……結論から言うとヴァーレン卿の予想通り、僕の呪いも小鳥ちゃんの呪いも、フォルン伯爵家の令嬢によるものだった」
ひとまず謝罪を終わらせ、向かいに座るルド様は私にお菓子を勧めながら口を開く。
「……昨日はあの後にお会いできたのですか?」
乾いていた喉を潤すと、豊かな茶葉の香りが広がり、体から余計な力が抜けたような気がした。ルド様と会っていると様々な理由で無意識の緊張が続いているのかも知れない。
「ヴァーレン卿と共にフォルン伯爵邸に行って、娘の非常事態にフォルン伯爵はだいぶ慌ててた。そこにヴァーレン家が現れたものだから、渡りに船だったんだろうね。ヴァーレン卿はすぐに面会ができたよ」
静かに事の顛末を話すルド様は普段通りの調子ではあるものの、組んだ指先は落ち着かなく動いている。
「僕は直接見ていないけれど、フォルン伯爵の前で、令嬢本人の口から僕と小鳥ちゃんの呪いについて言質が取れた。ヴァーレン卿の口添えで、白魔術師も紹介したようだ。僕の呪いについても、フォルン伯爵家が費用負担をして後日解いてくれるという話になったよ」
「それは……よかったですね、ルド様」
本の妖精さんの介入もあってか、とんとん拍子で進んだ事態が確認でき、詰めていた緊張が解けてほっとする。結果的に、ルド様もフォルン伯爵令嬢も無事呪いが解けそうで安心した。
真面目な顔をして話していたルド様が、ちらりと私を見て少しほっとしたように微笑んだ。その微笑みを見て、私はティーカップに顔をうずめて視線を静かにそらす。いい加減に不意打ちはやめてほしい。
「……フォルン伯爵令嬢は……小鳥ちゃんが僕にとっての特別に見えたようで、一時的な感情の爆発で、僕の呪いの際に手に入れて手元に残っていた術具で、つい呪ってしまったと言っていた」
「……そうですか……。まぁでもルド様に関連して狙われた理由なら、真偽はともかくそれが妥当と言うか、それしかないですしね」
「僕の軽率な行動の結果だったと思う。本当にこの通りだ」
はははと苦笑する私に、ルド様はもう一度頭を下げる。
「……フォルン伯爵令嬢とは……お知り合いだったのですか?」
「……僕に好意を寄せてくれていた、控えめな令嬢だったと思う。……僕の態度に混乱して、傷ついて、勢いで闇市で術具を取り寄せたらしい……」
「……傷つけた……のですか?」
「…………」
「あっ! ごめんなさい! 人様の事情にずけずけと……っ!」
黙ってしまったルド様に、私は突っ込み過ぎたと慌てる。
「あ、いや、ごめんね。違うんだ。聞かれたくない訳ではなくて……」
ルド様は何事かを考えながら話しているようで、少し力無く苦笑する。
「できれば、小鳥ちゃんに聞いて貰えると嬉しいーー……」
何とも言えない寂しげな表情で笑うルド様を、私は静かに見ていたーー……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます