これって、デスゲーム?

鷹橋

本編

 ガヤガヤとやかましい。でも悪くはない。

 ここは、千葉のどこかの競馬場。俺はひたすらに踊る。踊るしかない。

「ほらほらあんちゃん! 生きたければ踊れ踊れ! 隣の嬢ちゃんもだよ!!」

 これは歓声なんか? ここ十年間はプロダンサーをやってはいたんだが、こんなんは初めてだぞ。

 一人が足をもつれさせた。

 その場に音を立てて倒れる。

「大男のくせに体力ねえな! 脱落!」

 黒い服の、強面なのかもわからん奴らがつまみ出す。普段から踊っている俺には楽ではあるけど普通の人はこうなる。

「残り二人! ほら張った張った!」

「あの変な頭したあんちゃんに賭けるわ!」

「ずりい! 俺も! 横の嬢ちゃんは体力なさそうだ! 勝負にならねえな」

 俺もそうは思う。

「いや、自分はあの嬢ちゃんに一点がけだ」

 わかってないだろこの親父。俺はプロだぞ?

 隣の女の子は、華奢だ。足元もおぼつかない。すぐ倒れるだろう。

「ほらテンポあげるぞ! 踊れ!」

 曲のペースが速くなる。俺も慌てるくらい。ハアハアってくらいに息も乱れるわ。

 ……おかしい。隣の女の子、息が切れてない。

 たしかに足はもたもたしてはいる。曲が変われば普通は自分のリズムを狂わせるんだが、この子は変わらないで、同じ動きを曲に合わせて俊敏にさせているだと?

 や、やばい。

 こいつ、できる。

「おお? 嬢ちゃん、やるね」

気づいた者も出てきたが、もう賭けられない、勝負から降りることもできない。

「ああ、あんちゃんはやめておきゃよかった」

「ほれ男見せな!」

 今それを言うな。俺だって頑張ってるんだよ——。

 ふいに、俺は転ぶ。

 目の前が暗転する。

「ああー! 勝ったのは二番!」

 舌打ちが聞こえる。あーあ、と言った言葉も。

 目をこらして隣を仰ぎ見ると、さっきまでのふらふらした女の子はいなかった。

 動きの一つ一つに意味しかない、ダンサーが舞っていた。

 俺は薄れいく意識の中、敗けたことを悔やんでいた。

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これって、デスゲーム? 鷹橋 @whiterlycoris

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