眠りましょう

そうざ

Let's Sleep

「しゃび〜んみたいなっ、ほげろぉ〜んみたいなっ、ナウなナオンがチョベリグでどびょーんしたくなるみたいなさぁ」

 或る時は吟遊ポエマー、或る時はドメスティックエッセイシスト、或る時は超空間ラジエーター、或る時はフェイク陰謀論捏造家、人呼んで『時代に添い寝した男』とも、自称『枕投げは俺様が始めた遊技』でお馴染みの、生きバッファローの目を抜いてお手玉をするIT業界に半世紀以上も居座っている、稀代の、八方美人の、インフルエンシャルな、辛之河つらのかわあつし氏をスリーピングプロデューサーに迎えた商品企画会議は眠くて堪らなかった。


 氏考案の『睡眠は涎と目脂の腐れ縁』という名言が一部で話題になったのはもう四半世紀も前の事で、それ以降これと言って注目される事もなく、時代の寵児と呼ばれたのは一体いつの事なのか、本当にそんな風に呼ばれた事があるのか、疑惑の目を向けざるを得ないのは、年末恒例の『何をしてんのかよく分かんないが有名な人ランキング』でとっくに殿堂入りをしている御仁だからだ。

「もう羊にんぶに抱っこに肩車の時代じゃないっしょっ、現代人はもっとディクセンティビックロンダリンディアンシヴな睡眠が必要なんだよっ!」

 辛之河氏はテスト用ヘッドギアを装着すると、その脳内イメージをスクリーンに投影させた。


 無明の闇。

 その彼方に砂煙が立ち昇り始める。

 轟く地鳴り。

 大地の躍動がこちらへ向かって来る。

 群れを成したは全てを破壊しながら突き進む――ここに言う『全て』とは森羅万象、有象無象、ありとあらゆるもの。


「来たっ来たっ来たっ1頭っ2頭っ3頭っ4頭っ5頭っ6頭っ7頭――」


 そこで辛之河氏のカウントは途切れた。

 群れ成すは、辛之河氏も、商品企画会議も、文明社会も、天体も、この宇宙を形成する一切合切を無量大数から涅槃寂静へと転じさせた。

『全て』が無かった事になり、睡眠の概念さえも消え失せた。

 遂に真の眠りがもたらされたと言えなくもない。

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