第4話 結婚式に手を出すな! その1 高砂や、

「よう、嬢ちゃん達!」

アカネとモモが〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉の本部に入ったとたん、声をかけられた。


「聞いたでぇ!えらい活躍しよってからに!」

「あっ、田貫のおっちゃん!」

「こんにちは。久しぶりですね。」


怪しい大阪弁でしゃべる赤いジャケットのこの男、アカネ達と同じ〈 D.E.M.A〉所属で、百人からなる実働部隊のリーダーである。

愛嬌のある顔に丸っこい身体つき、とてもそうは見えないけれど、かなりの実力者らしい。


「総統が言っとったわ、褒美が追い付かんと。」

「えへへ。」

「んで、今日は何や?」

「その事件を説明するって、呼ばれたんです。」

「なんや、随分たっとるんとちゃうか?」

「そうなの!やっとなんやで?」

アカネの大阪弁にも無理がある。


季節はもう秋である。

もう事件から三週間が経とうとしていた。

既にアカネは忘れかけてる。


「こんにちは。」

「こんにちは。」

「おう、嬢ちゃん達も。」


アオイとアサギが来た。

「綺麗どころが揃ったわ!眼福眼福!」


「おっちゃん!いやらしいで!ほんまに!」

「まだサクラコちゃんが来てないよ?」


「ごきげんよう。田貫のおじさま。」

サクラコとカエデコが来た。

「おおっ!さらに別嬪さんや!ほんま本部に来た甲斐があったで。」


「賑やかね。」

「橘音さん!」

「「「「「「「こんにちは!」」」」」」」

「はい、こんにちは。」


「いやー、やっぱり姐さんが一番やわ!」

「田貫さんも相変わらずですね。それと〈姐さん〉は止めてって。」

橘音は困った顔をした。


「まあ、そない言わんと。名残惜しいとこやがなー、そろそろ行かなあかんねん。忙しなくてかなわんわ。」

「どこ行くの?」

「あっちこっちの山や。なんか、気が乱れとんねん。まっ、調査しとかんとな。ほな姐さんまたな。」

「ええ、いってらっしゃい。」

橘音は諦めた様だ。


「今日は〈総統〉さんとこ?」

「いえ、〈公園〉で話すみたいよ。」

「〈公園〉?」

「ええ。付いてらっしゃい。」


「あの、今更ですけど、私も行っていいんですか?」

「カエデコさんね。〈総統〉が許可したのなら、私が言う事はないわ。」


「あのっ!」

「?」

「いえっ、何でもないです。」

アカネは聞きたい事がたくさんあるのだが、取り敢えず〈公園〉に行ってからにしようと思った。

”聞きたい事”がたくさんあるのは、橘音を抜かした此処にいる全員がそうである。


少し歩くと、まだ足を踏み入れた事の無いエリアになった。

毎度の事だが、本部は思ったよりかなり広い。

此処の〈空間〉はどうなっているのだろう?


そして、〈公園〉と表示してあるドアの前に立つ。

橘音がドアをノックして、声をかける。


「橘音です。皆さんをお連れしました。」

「入り給え。」

「失礼します。」


扉を開けると、そこは〈公園〉だった。

地下のはずなのに、青空が広がっている。

遠くには山、近くには池も見える。

山は樹々で覆われているが、まだ紅葉は始まっていないみたいだ。


いろいろおかしな事には慣れたつもりだったが、やはり驚かずにはいられない。

呆けた様な顔をした『〈ゴスロリ♡5〉+一人』の様子に満足した〈総統〉は、我が意を得たり、とばかりに微笑んだ。


いや、仮面を付けているので、微笑んでいるかどうかは、分からないが。


〈公園〉にはいくつかテーブルがあり、その中で一番大きなテーブルに〈総統〉がいた。

他に女性が三人、一緒にお茶を飲んでいる。


「〈総統〉さん、こんにちわ。」

「「「「「こんにちわ。」」」」」


「やあ、こんにちは。待っていたよ。さ、掛けたまえ。」

皆がそれぞれ席に着く。

橘音は〈総統〉の後ろに立ったままだ。

〈ゴスロリ♡5〉達から軽い挨拶、自己紹介が始まる。


「話を始める前に紹介しよう。ウチの頭脳、〈白沢〉さんと〈佐鳥〉さんだ。」

「〈シラサワ〉です。宜しくね。」

「〈サトリ〉よ。」


〈シラサワ〉さんは白くて長い髪を後ろで束ねたお姉さんだ。

ちょっと垂れ眼だが、その瞳の色は赤い。

〈サトリ〉さんは黒髪だが、前髪が長くて、目を隠しているみたいだ。


「そして彼女は〈シュレイネ〉さんだ。説明の為にお越しいただいた。」

こちらは金色の髪の美人さんだ。

儚げな印象がある。


「彼女は言葉が話せない。なので〈サトリ〉さんに通訳て貰う。」

今の一言で、アオイ、サクラコ、カエデコは〈シュレイネ〉さんの正体が分った様だ。


「さて、何処から説明したもんかな……。まずはまた謝らせてくれ、折角のクルージングが台無しになった事、そして無事終わった事には感謝している。」

〈総統〉は合う度に”謝罪の言葉”と”感謝の言葉”を口にしている。

根が真面目なんだろう。

だが、アカネ達の中では、それなりに苦しかったはずだが、”面白かった思い出”に昇華していた。


「さて、まず彼女だが……。」

「〈人魚姫〉さんですか?」

アオイが先に言った。


「「「ええ~!」」」

驚いたのが三人。

アカネとモモは客船の廻りに人魚達がいた事を見ていないし、アサギは気絶していたから、こちらも見ていない。


「あっさりバレたか。何で分かった?」

「〈言葉を話せない〉って言いましたわ。」

「それに〈雰囲気〉で。」

成る程、〈人魚〉は陸に上がる為には〈言葉を失う〉と云う伝説がある。


「『はい。私は皆さんの言うところの〈人魚〉ですが、〈お姫様〉ではありません』と言ってます。」

早速、〈サトリ〉さんが通訳してくれた。


……、〈シュレイネ〉さんはニッコリ微笑んでいるだけなのに、何故わかる?


「事の起こりは、今からざっと2200年前、大陸に〈秦〉と云う国があった。」

「他の国々、戦国七雄を滅ぼして、天下統一を果たした……。」

「秦の始皇帝?」

アサギが答えた。


「そう、その〈秦の始皇帝〉の我儘から始まった。」

いきなり壮大な話である。

ビックリである。


〈総統〉はここで言葉を止め、みんなの反応を楽しむ。

真面目なのか悪趣味なのか、分からない人だ。


だが、〈秦の始皇帝〉を知っていたのは本好きのアサギとサクラコとカエデコだけだった。

アカネとモモとアオイは知らないので、反応のしようがない。


しかし、おそらく大昔の偉い人が、この前の”おフランス人”で”英語の名”を使い、”レオタードにボンデージ”と云うカッコをした

東洋人のおじいさんにどう繋がるのか、皆目見当がつかなかった。


しかも名前が”ドラキュラ伯爵”。


そこに〈マーマン〉と〈人魚〉と、大きな〈口腕〉も絡んでくる。

盛り過ぎで、却って反応が薄い。


その薄い反応に、〈総統〉は密かに落胆した。

案外子供じみてる人だ。


「……、その〈秦の始皇帝〉がある男にある事を命じた。」

「〈徐福伝説〉……。」

「そう、〈徐福〉に〈不老不死〉の〈仙薬〉を探させたのだ。」


「では、あの〈老人〉は、〈不老不死〉を得た〈秦の始皇帝〉?」

「違う。」


「〈徐福〉本人!」

「それも違う。」


「その、『〈不老不死〉の〈仙薬〉』なんて、ありましたの?」


「勿論、そんなものは無かった。」








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