伊庭八代のモーニングルーティン

おめがじょん

伊庭八代のモーニングルーティン



 伊庭八代には三分以内にやらなければならないことがあった。

 健全な男子大学生の朝活といえばまず第一にオナニーが上がってくるのは男子の共通認識である。彼が住んでいる寮の各所においても、各々朝活に勤しんでいる事は明白の事実であった。


(出席がまずい……)


 前回の授業で代返の方式が看破されてしまったので時間通りに出席する他ない。

 今、既にこの時間は遅刻寸前である。オナニーしている暇なんかない。

 だがしかしオナニーをせずに大学に行くのは気分が悪い。彼に残された時間は概ね三分。一分でオカズを決め、一分で勃たせ、一分でフィニッシュまで持っていく。彼が導き出したギリギリのプランだ。

 

(今日の気分は──)


 股間と己に問う──。今日はどんな気分? どんな調子?

 午後の授業は黒ギャルの先輩と一緒だ。スマホをスクロールさせてダウンロード済動画を出す。単体。ハーレム。VRは時間がない。股間との対話に使える時間は数秒──その時だった。


「嘘でしょ!?」


 スマホが鳴り出し、着信画面が表示された。

 かけてきた表示名には「伊庭累」とある。妹の名前だった。この前再会した時無理矢理番号交換をさせられたのだった。そういえば今度通話したいだなんて言っていた気もする。何故このタイミングで。この時点で妹モノでヌく世界線は消えた。


「ッ!」


 通話拒否ボタンを押そうとする。だが待てと脳の正常な部分が制止をかけた。

 妹の性格を考えたらこの後が怖い。着信拒否なんてしたらまた寮まで押しかけて来そうだ。自堕落な生活を改善すると口約束はしたものの、守る気なんてサラサラなかった八代の部屋は荒れ果てている。半殺しじゃ済まない。またローションを全部捨てられたら泣いてしまうと背筋が寒くなった。


「ごめん累ちゃん今授業中!」


 一瞬で電話に出て一瞬で嘘を吐いて一瞬で通話を切る。

 正に達人芸の如き速度であった。ロスしたのは数十秒。ええい、ここはもう一番使用頻度の高いモノでいくしかない。聡明なる読者諸兄も最強の一本は存在するだろう。八代の気持ちがわかる筈だ。寮内では常に全裸なのでパンツを脱ぐ必要もない。Bluetoothイヤホンを装着し、再生ボタンを押す──が、


「あっ……アッ! アァン!」


「なっ───!?」


 音声がダダ漏れだった。Bluetoothイヤホンの充電忘れだ。

 慌てて映像を止めた。寮内で大音量でAVを流すのはマナー違反だ。それにどこでヌいたか後で散々弄られる。有線イヤホンがどこかにあった筈だ──と周囲を見るが生活が荒れ果てているので場所がわからない。


「どうする……」


 シコるか。単位か。究極の選択であった。

 男にとっていかに朝のオナニーが大事な日課なのか十分お分かり頂けたであろう。


「昼休みまで我慢だっ!」


 男として負けた気分である。

 消化不良のモヤモヤをかかえなくなく伊庭八代は海パンとサンダルを履いて窓から飛び降りて外に出た。玄関なんか使ってられない。そのまま寮を出て、同じく遅刻寸前で半裸に近い同級生達と全力疾走しながら大学へ向かった。



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伊庭八代のモーニングルーティン おめがじょん @jyonnorz

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