王様の旋律 ―再奏―

星 霄華

序章

第0話 夜半を駆ける者


「――――っ」

 夜の小路で大きく目を見開いた男の身体が傾いた。路面に転がった身体から血が広がっていく。

 しかし、亡骸の傍らに立つ者は人の死をわずかに気にしていなかった。片膝をつくと男の指から装身具を抜きとる。

「よかった、まだ生きてる」

 指輪を見下ろし、人影はほっとした表情になった。

「もう大丈夫だよ。すぐ助けてあげるから」

 言って、人影は身を沈めるとぐんと跳び上がった。身の何倍も上にある屋根に着地し、眼前の街並みを睨みつける。

 月明かりに照らされた街は街灯の明かりを残して多くが眠りに就いていたが、昼のように明るい箇所もいくつかあった。昼間ほどではないが人通りも多く、賑わいが遠く聞こえてくる。

 眠らない街を抱えた、王国の中心。生命にあふれた都。

 しかし人影には生者の都に見えなかった。死にゆく者の嘆きと悲鳴に満ち溢れた、地獄の底のように思えてならない。

「……こんなところ、全部なくなってしまえばいいのに」

 都への怨嗟を呟き、人影は屋根を蹴った。屋根から屋根へと飛び移る。

 そうだ。彼らはこんな場所にいてはならない。こんな自由であるべきものたちを捕らえ、死へと引きずりこむ場所になんて。

 だから、自分が助けだすのだ。

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