二日目終了

「これにより二日目の全ての試合が終わりました。流石に二日目になると簡単な試合は一つもないですね」

「はい、明日は第一試合がカズマ選手対カナード選手。第二試合がバンカー選手対ボルガン選手となっております」

「大会も残すところ後二日。皆様最後までこの熱狂を味わいましょう!」

 マネッティアとセルビアが大会の締めに入っている。


「らしくないな、バンカー」

 控え室にいるバンカーにストロンガーは質問した。バンカーは椅子に座り黙っている。

「試合を壊すような奴じゃないだろ?」

「あれはもう試合じゃない。なのに観客はそれを楽しんでいた。昔の闘技場を思い出して我慢ならなかった」

「ふーん、あれとは全然違うと思うけどな」

「何より執拗に攻撃するボルガンが許せなかった」

「まあ、その怒りを明日の試合にぶつければいいだろ」

 バンカーは黙っている。


 エルロンは外に出たがらなかった。会場に引き篭もり撤収しようとしない。

「あんな試合をしたら恥ずかしくて出れません」

 観客としては素晴らしい試合だったが、エルロンにとってはでも足も出ない情けない試合だったという認識なのだ。

「何言っとるんじゃ!さっさと帰るぞ」

 渋るエルロンをベアルは無理やり担ぎ上げて連れていく。カズマとバフェットも一緒に歩きながら出口に向かう。

 出口の前に来ると流石のエルロンも諦めて自分で歩き始めた。

 外に出ると多くのファンが彼らを待っていた。皆が労いと応援の言葉を掛けてくる。勿論エルロンにも多くのファンが声を掛けてくれた。その中に花道沿いにいた少年もいた。

 エルロンは少年に気付くと少年の前にしゃがみ込んだ。

「ごめんね、勝てなかったよ」

「ううん!カッコよかった!」

 エルロンはその言葉を聞けて本当に嬉しかった。先程までの不安は何処へやら、エルロンの顔に笑みが溢れていた。

 エルロンは羽根を一つとって少年に渡した。それは少年のかけがえのない宝物となったのは言うまでもないだろう。


 エルロンが宿に戻って皆と食事をしていると、従業員が入ってきた。

「エルロン様、お客様をお連れしました」

「お客様?」

 エルロンは身に覚えがなかった。ただ一つの可能性を考えた。自身の母である。あのお節介の母なら試合を観た後に駆け付けてもおかしくない。

「ど、どうぞ……」

 エルロンは気が進まなかったが来客を招いた。

 扉が入ってきたのはボルガンであった。

「邪魔するぜ」

「あばばばばばば」

 驚きのあまりエルロンは椅子から転げ落ちた。顎はガクガク、足はブルブル震えている。ベアルもバフェットも驚いている。

「な、何ですか?ゴタゴタはありましたが試合は僕の負けです!まさかここで決着を!」

「そんなんじゃねーよ。ビビんなくてもいいだろ?ただの挨拶だ」

「挨拶?」

「よかったぜエルロン。これから大変だろうが頑張れよ」

「え?あ、ありがとうございます」

 そう言ってボルガンはさっさと出て行った。それだけを言う為にボルガンは尋ねてきたのだ。

「敗者にも労う、彼なりの矜持があるらしいですね」

 バフェットは落ち着いてボルガンの意図を考えた。

「なるほど、ただの戦闘狂じゃないのじゃな」

 ベアルも何やら納得している。

「これから大変になるってどう言う事ですか?」

 エルロンはまだボルガンの発言の真意が分からない。それにはカズマが答えた。

「今日エルロンはどんなに技を喰らっても諦めずに立ち上がったよな」

「……はい」

「観客はそんな姿を見て応援したよな」

「……はい」

「ならこれからはどんなに負けそうな相手にもギリギリまで戦わないといけなくなったんだ。観客はそんなお前の姿を期待する様になったんだよ」

「ちょっと待って下さい!今日だって死ぬかもしれないと思ってたんですよ?そんな試合をこれからも?」

「がはは!苦難な道を選択したのお!」

「ふふ、頑張って下さいね」

 ベアルとバフェットも囃し立てる。

「いやいやいや、死んじゃう!死んじゃう!」

 エルロンは必死に否定しているがボルガンとの激闘は王国中で観られていた。

 翌日の新聞にはこう書かれていた。

「不屈の戦士エルロン!その日の夜ボルガンと接近!結果に納得いかず再試合を要請か!」

 エルロンは新聞を読み膝から崩れ落ちた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る