名もなき総意

でこぽんず

第1話

日本を代表するポップスターがスキャンダルを起こしたと報道された。妻がいるのに、複数の女性を弄んだという内容だ。妻は慰謝料を、浮気相手の女性たちは謝罪と引退を要求、かつてのスターは真っ向から否定した。


駆け出しの週刊誌記者は溜息をついた。


「先輩、自分たちは低俗ですね」


先輩記者は笑った。


「何言ってんだ、俺たちが経済を回してんだ」

「でも、本当かどうか分からないタレコミや、有名人の粗を…」

「こいつらだよ」


先輩はパソコンの画面を突いた。ネットの書き込みが映る。


「1番の悪人はこいつらだ。自分の目で見ず、自らの頭で考えず、何も生み出さない癖に耳心地の良い言葉に流され、人を叩き、凶弾して、そいつをドン底に落として大喜び。挙げ句に俺たちマスコミのせいにする。なんでこんな記事を俺が書くか分かるか?売れるからさ。1番の悪人は、善人面して名前も出さずに匿名で他人の不幸を喜ぶこいつらさ」


先輩はいつになく早口で喋る。


「太古の時代から令和まで変わらない。きっと未来永劫な」


駆け出しの記者が黙ると、先輩記者はぬるくなったコーヒーを啜る。


「キリストを殺したのも、英雄や独裁者を死に追いやったのも」


先輩は外を指差した。交差点ではなんの面識もない人々が行き交う。


「名もなき大衆、善良な一市民の総意だよ」

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