アンバサダーからの挑戦状その① 徳川埋蔵金 大発掘!?

越知鷹 京

全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ


『琵琶湖 過去最低水位マイナス246センチ!?』


***


2024年の夏。歴史的な干ばつが日本を襲い、琵琶湖の水位は過去最低のマイナス246センチにまで下がった。その結果、湖底から何かが露出した。それは、徳川の埋蔵金の存在を示す古い地図だった。その裏には、古代文字で『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』と書き記されていた。


◇――


簡単に『徳川埋蔵金』について説明するとしよう。


1868年4月に江戸城が無血開城となった際、当時財政難に喘いでいた明治新政府は幕府御用金を資金源として期待していた。ところが城内の金蔵は空であったため、幕府が隠匿したと判断した新政府軍による御用金探しが始まったのだ。


徳川埋蔵金の金額は一説には360万両から400万両くらいといわれている。 1両は7万5千円に相当するので、換算して計算すると、徳川埋蔵金は現在のお金に換算して、だいたい2700億円から3000億円くらいの膨大な金額というのだ。※または 推定 20兆円 ともいわれている。


そして、徳川の埋蔵金が埋められている場所には諸説あるが、疑わしい場所はすべて掘り起こされていた。その隠し場所は「日光東照宮」「群馬県の赤城山」などさまざまな説があるが、いまだに埋蔵金が出てきたという報告はない……。


――◇ Meeting ◇――


この物語の主人公は、歴史学者の 田中 “ファントム”一郎 と、彼の助手である若き考古学者の雲母火きららび彩葉いろは。二人はこの地図を手に入れ、徳川の埋蔵金を見つけ出す冒険に乗り出す。


田中 “ファントム”一郎は、この地図が示す場所を解読しようと試みる。一方、彩葉は地図に描かれた謎の記号と文字を解読するために、古文書や資料を調査する。


「ねぇ。この古文書にある『バッファロー』って北アメリカに生息する『アメリカバシソン』のことかしら?」



彩葉いろはは 日本地図と にらめっこをする“ファントム”一郎に訊ねた。



「当時、アメリカからそのような贈り物をされたとは、どの文献にも載っていない。だとすれば、考えられるのは もうひとつの 可能性の方なんじゃないか」


「つまり『闘牛』? でもそうと仮定したら、ある道筋が生まれるわ。たしか、本格的な闘牛が行われたのは安政3年。江戸城が無血開城となった年の12年前よね。つまり、1856年に現在の愛知県宇和島で行われていた……」


彩葉いろははペンをとり、近くのメモ用紙に走り書きをした。



……ふたりは、漠然とした点と点が繋がりそうな予感がした。



「愛知県といえば、織田信長が「清洲城」から桶狭間の戦いに出陣して勝利した場所がある。天下統一への第一歩を踏み出した城といわれているな」

「そして、信長が討たれたとされる「本能寺の変」の後に行われた後継者を決める【清須会議】が開かれたのも この場所 ……」


“ファントム”一郎は、地図にある「日光東照宮」と「清洲城」を赤ペンで丸で囲った。そこで、あることに気がついた。


日光東照宮は、天海の指揮の元でつくられた。その日光東照宮に明智光秀の桔梗紋が使われているという説がある。この説は完全なる間違いであるが、これこそが、埋蔵金を見つけるためのヒントになっているのでは? と 考え始めた。


「南光坊天海には『未来予知』が できたと云われている。そのことは、君も知っているな?」

「そうね。豊臣秀吉,徳川家康を巻き込んで、信長を討った理由が、明智光秀の『未来予知』だったとか。そんな話なら聞いたことがあるわ」


彩葉いろはは、空想科学のような話だ、と付け足した。


「信長を支持する派閥が、民意をそぐような行為…いわゆる、裏金問題のようなトラブルが世間に広まってしまい、このままでは 大手を振って『天下統一』を宣言できない。だったら、トップを変えて 安泰な時代を築く方を選ばないか? と提案したそうだ。もっとも、僕は『信長は切腹ではなく、胃ガンで死んだ』という説を信じたいがね」


「なによ、それ?」


彩葉いろはは笑って受けながした。


「それで、あなたは 何が 言いたいの?」

「天海の『未来予知』が、江戸幕府の終わりを言い当てていたとすれば、どうだろうか?」


「つまり、このヒントは天海が残してくれた? 冗談じゃないわ」

「この言葉を見てくれ」



琵琶湖から出てきた古文書の『全てを破壊しながら突き進む』の部分をさす。



「これは、江戸幕府が終わることを記していたんじゃないのか」

「黒船来航のことを言っているの?」


“ファントム”一郎が、力強く指を鳴らした。

「そうだとも!」


ペルーの乗ってきた黒船は、とてもじゃないが『全てを破壊』できるほど、強力な軍艦ではない。それと結びつけるのは あまりにも 軽率ではないだろうか。


「だったら、これが琵琶湖から出てきた理由はなに?」

「『バッファロー』は、もともとは「水牛」を意味している。これは単なる遊び心からじゃないかな。家康公は とても トンチが好きだったと書いてあったろ」


『水』という文字が 使われるからという理由で、日本で1番大きな湖を選んだとは、とても考えられない。彩葉は、呆れてしまう。



――◇ 琵琶湖湖底遺跡(びわこ こてい いせき)◇――


彩葉いろはは、湖底遺跡の写真に目を落とした。


「群れ、むれ、ムレ。『バッファローの群れ』なんて、どうやって愛知県と結び付ければいいのよ…」


滋賀県の琵琶湖に100以上確認されている集落などの湖底遺跡がある。

的を絞るにしては、あまりにも多すぎた。



頭を抱えて、机に突っ伏していると“ファントム”一郎がやってきた。


「ダメだぁー。彩葉くんよー。明智光秀が頭から離れてくれない」


おまえ日本地図みてたんじゃないのか、と突っ込みそうになるをグッとこらえて、笑顔をつくろった。仮にも上司。機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。


すると、奇跡が起きた。

“ファントム”一郎のあご髭が、目に留まったのだ。


「そうよ、きっと。そうなんだわ!」

「急にどうした! ビックリするじゃないか」


驚く“ファントム”一郎を盲点へ追いやり、『群れ』の意味を理解したのだ。


「わかったのよ、群れの意味が!」

「ほう。聞かせてもらおうじゃないか、君の仮説を」


“ファントム”一郎の眠そうな眼が、くっついたり離れたりと忙しそうにしていた。

なのに、声だけは凛々しいのは釈然としない。


「白鬚神社(しらひげじんじゃ)の事だったんですよ! 思い出してください、滋賀県高島市にある白鬚神社の本殿を!」


彩葉は歓喜の声をあげた。

まるで、埋蔵金のありかが分かったかのようであった。


「あぁ。たしか、豊臣秀頼の命により片桐且元を奉行として播磨国の大工の手で建てられたんだったな。……片桐且元といえば、七本槍の一人。たしか、方広寺鐘銘事件(京都大仏鐘銘事件)が生じ、大坂城を退出して徳川方に転じたんだったか」


そのときだ――。

“ファントム”一郎が、眠りの一郎へと覚醒したのだ!


「そうです! 教授が言っていた『明智光秀 陰謀説』とも繋がるんですよ」

「ついに『天眼』を広める時がきたのかッ!」


眠りの一郎が 人差し指を 天へと高々と差した。


「え? 教授は 何を言っているのですか」

「光秀は美濃国の出身。つまりは、そういう事なんだな」


彩葉は自分の仮説が正しいと肯定されたようで嬉しかった。


「やはり、教授もお気づきになられていたんですね!」

「あぁ、もちろんだとも。あのときだな、あのときに気づいてしまったんだ」


チクタク チクタク。


眠りの一郎の寄せては返す身体の動きは、まるでメトロノームのようであった。

あぁ、これは夢の中だな、と彩葉は悟った。


チクタク チクタク。



――◇ 大発掘 ◇――


後に、ふたりは地図に描かれた場所が “湖上の鳥居の真下” であることを突き止める。しかし、その場所には何もない。そこで一郎は、埋蔵金は地面の中ではなく、鳥居そのもであるという新たな仮説を立てる。


そして、X線を使った透視撮影をした結果、驚愕の事実が明らかとなったのだ。

鳥居を最中もなか状にすることにより、その中に 純金 を隠していたのだ。


この発見は、日本中を驚かせ、二人の名は一躍時の人となる。しかし、それらは『徳川の埋蔵金』ではなく、『豊臣の埋蔵金』であったと後に判明したのだ。


ふたりは、再び 古文書を 手にとった。


『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』と書き記された謎を解くべく。

歴史的な大発見を求めて、日本全国を渡り歩くのであった――。



◇ 了


※この物語は、フィクションであり 現実とは異なります。

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