神さまのお気に入り

宿木 柊花

観察者

 彼には三分以内にやらなければならないことがあったはずだが、やれやれ思い出すこともできずに終わりを迎えそうだ。

 人類が愛するカップラーメンを待つ間にフォークや箸などを用意しようともせず、ただ流れ落ちる砂時計を眺めつづけるだけの者に期待した私がバカだった。


 全くもって面白くない!




 発狂し泣き叫ぶ者、怒りに声を荒らげる者、絶望し声高に笑う者、理解しようとする者。

 人間とは感情動物、こうでなくては面白くない。

 だが、瞬時に状況を理解し帰還する者がいた。あやつの去り際に見せた嘲笑あざわらう顔を私は忘れない。

 あの顔を歪ませたいとこんなにも臓腑を震わせたことはなかった。

 こんなに面白そうな玩具おもちゃが手に入るならになった甲斐があるというもの。


 四角い箱の中、彼を入れてみたが何周目の三分をしているのか、いまだに動かない。

 泣きも騒ぎも暴れもしない。

 彼の現世での生活を見るに玩具にとって重要な心が壊れてしまっているのだろうか。

 せっかくのプレゼントにも興味を示した様子はない。

 つまない。

 昔から観察というものは性に合わなかった。

 もうすぐ三分も終わる。

 長く見続けてしまったがもうおしまい、クシャッとして捨ててしまおう。


 無意識に溜め息が漏れる。


 近すぎたのか彼のボサボサの髪がライオンのたてがみのように乱れる。

 隠れていたブラウンの瞳にはまだ光が宿っていた。


 彼はまだ遊べそうだ。

 口元がゆるむのを感じ、胸が軽く温かくなる。気付けばまた砂時計をひっくり返していた。

 次のプレゼントは何にしようか、彼のアカシックレコードをペラリとめくる。

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