中古の本に挟まれたアンケートはがき
明鏡止水
第1話
わたしは、本を探していた。
本は目の前に沢山あった。
ただ、背表紙の魅惑的な題名たちを、どこか冷めた目で見るくらいには。
中古の本屋というものは、実はわたしは心躍らないのだ。
所詮は誰かの手に取られた、セクハラだが「中古」の女たち。
けして未経験の女性が夢だとか、気持ち悪いことは言わない。
ただ。
わたしは中古が苦手なのだ。
それでも中古の本屋にいるのは、安いからだ。
掘り出し物もある。
お宝発見。
「……」
一冊のワイドサイズの漫画を手に取った。
パラパラとめくっていくと。
……見つけてはいけない物を見つけてしまった……。
その本に付いていたであろう、よくある書籍の感想のアンケート回答はがきだ。
ワイドコミックなどの高い本にはよく付いている。
危険なのは。
「作中のキャラクターが読んだ和歌が恋も、滅法の世も感じる素敵な和歌でした! 特に主人公が姫のところにやってきた時に見せた表情が」……。
ガッツリアンケートはがきに感想が書いてある。
この本を売った人はこの事態を知ったらどう思うか。
店側も買い取った本は翌日まで溜めないように即時価格を決めて値付けをラベラーで行い、中身を確認することなく売り場へ陳列してしまったのだろう。
アンケートはがきにはおそらく若い女性の、和歌への思い、詠んだ歌人のビジュアルの絶賛、ストーリーへの、こちらが辟易するか、なんというか。
冷静になってしまいつつも虚無を生む。
恥ずかしい事態が目の前の本に一葉。
さらにまずいのが。
住所が書いてあるじゃないか!!!!!
アンケートはがきには、その本を読んだ記念の感想のつもりなのか、ポストに投函しようとまで考えていたのか。はたまた孤独に感想と項目全てを書いて、切手も買えずに、栞に使っていたのか。
全ての項目が埋まっていた。
電話番号まで書いてある。これは、個人情報ではないか? この本の前の持ち主が丸わかりになる……。
わたしは……。
それを……。
欲しい本ではないので、はがきを当然のように抜き去り、じっと見る人となって、もしかしたら監視カメラに映っているであろうに。
店を出る手前ははがきを隠すようにして、今更遅いが、店をドギマギした気持ちで出た。
何をしているのか。
わたしははがき一葉分の切手をコンビニエンスストアで買い、舌で舐めて貼って、その店の真ん前の赤い円柱のポストへ投函した。
ほんの五十だの六十円だのくらいの出費だ。
なんだか。
投函したはがきのおそらく女性の名前と、住所を記憶してしまっている気がする。
変な気は起こす気はない。
ただ、危険なことだ……。
本は売る前に、大切な栞やチラシ、回答済みのアンケートはがきなんてけったいなものが挟まっていないか確認するべきだ。
……。
これだから、中古の本屋は、複雑な気分なんだ。
本当は触ったら手を洗いたくてしょうがない。
だが、先も述べた通り、安いのだ。
わたしは潔癖症だ。
けれど。
あのはがきは、汚いと感じなかった。
中古の本に挟まれたアンケートはがき 明鏡止水 @miuraharuma30
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます