ひとりで両想い

花 千世子

ひとりで両想い

 男性の魅力は面白さ。

 やっぱ同じテンションで騒げる人がいい。

 ボケとツッコミできるぐらいに、楽しい会話ができる男性がいい(私がボケである)


 そんな気付きを得たのは、高校一年生の頃だった。

 なにがあったというわけではない。

 本当にふとそう思ったのだ。


 そして、専門学校一年生の頃。

 私は悩んでいた。

 恋がしたいのに、恋ができない。


 しかも私は惚れっぽい人間だった。

 ちょっと優しくされるとコロッと好きになる。

 ものすごくチョロいのだ。

 

 専門学校でも、色々な男子(二年生の先輩たち)に告白しすぎて、ちょっとした有名人だった。

 噂されるほど告白するってもうヤバいと思うんだよ。


 同じ年の一年生の男子がターゲットじゃなかったのは、同じクラスの男子たちにいじめられていたからである(告白どうこうとは原因は別)

 それなのに学校に行っていた私えらい(急な褒め)


 そんなこんなで、校内で彼氏ができることは絶望的だった。

 当時はバイトはしていなかったので、他に出会いはない。 

 

 しかも、高校からの親友である鈴ちゃん(仮名)は同じクラス。

 彼女には、同じ学校の一つ上の先輩の彼氏がいる。

 ふたりはいつもいっしょ。

 鈴ちゃんの彼氏は、私にも気さくに接してくれる良い人だったので、学校では三人でいることもあった(私と鈴ちゃんと彼氏、という図)


 間近に幸せそうなカップルがいると、こちらの寂しさが際立つ。

 親友が幸せなのはうれしい。

 しかし同時に、目の毒でもあった。


 あれはよりいっそう人恋しくなる19歳の秋の頃。

 鈴ちゃんにこんなことを聞かれた。


「私の従兄弟、同じ歳なんだけどね。彼女ほしいって言うの」

「あー。気持ちわかるー」

「だから、誰か紹介してほしいって」


 鈴ちゃんはそこまでいうと、トドメの一撃。


「従兄弟、面白い人だよ」


 面白い人。

 そう聞いて、私はこう思った。

 運命に違いない、と。

 

 その時は、そう信じて疑わなかったので、「それなら私に紹介してほしい」と頼んだ。


 こうして、私は鈴ちゃんの従兄弟である西川くん(仮名)と、メールや電話のやりとりをするようになった。

 

 西川くんは、関西方面に住んでおり、愛知の私がほいっと会いに行ける場所でも、向こうからすんなり来られる距離でもなかったのだ。

 ちなみに、西川くんは大学生だった。


 メールでやりとりして、電話で話すようになった。

 西川くんは面白い人だった。

 これはもう好き確定だと思ったのだ。

 私は、この人を彼氏にしたいと思うようになる。


 お互いに住所を教え合って、プリクラも交換した。

 顔とかはまあ、どうでもよかった。

 ちなみに私は塩顔系が好みだったが、西川くんはハッキリとした濃い顔立ちだった。

 西川くんからしたら、私の顔は全然好みではなかったと思う。


 外見なんてどうでもいい。

 大事なのは中身。

 話していて面白いかどうか。

 

 西川くんと電話をすると楽しかった。

 すっごく楽しかった。

 絶対に付き合おうと思った。

 だから口にするしかない、と私は悟る。


 ある日、電話の最中に、こう言ったのだ。


「私、西川くんと付き合いたいと思うんだけど」


 会っていないのに、なにを言っているのか。

 これを読んでいる方はそう思うだろう。

 だが、惚れっぽい人間というのはそんなものなのだ。


 そして、西川くんも突然の告白に驚いたらしい。

 そりゃそうだろう。

 当然の反応だ。


「おれも千世ちゃんのこと、ちょっと気になってる」


 西川くんはそう返してくれた。

 冷静になって考えると、西川くんは空気を読んでくれたんだと思う。


 私は、それからどんどん暴走した。

 具体的に言えば、ペアリングを買いに出かけたのだ。

 意味がわからないよね。

 付き合ってないのにペアリングってなんだよ。


 でも、当時の私は「気になる」は「好き」の前触れだと思っていた。

 恋の芽が出ているのだと、そう思い込んでいたのだ。

 だからもう、私たちが付き合うのは秒読みだと。

 そう信じて疑わなかった。


 これ書いてて思うんだけど、当時の私なんかこわいな。

 

 そうやって喜び勇んでペアリングを購入しに行ったのだが。

 いかんせん、相手の指輪のサイズを知らない。

 なので、ペアのブレスレットを買った。


 そして、そのことはすぐに西川くんに報告した。


「ペアのブレスレット買ったから、一つは西川くんに送るね」

「えっ……。ペア? まだ付き合ってないのに」


 てっきり西川くんも喜んでくれると思っていたので、私はショックを受けた。

 あれ? 西川くん、なんか引いてる(ちょっと気づいた)

 さらに西川くんはこう言う。


「おれたち、まだ会ってもいないのに……」


 そうなのだ。

 まだ会っていないのに、ペアブレスレットってなんやねん。

 おれたち付き合おうとも言ってないやろ。

 西川くんはそう言いたいだのだろう。

 

 ここで私は、一人ではしゃいでいたことを少し反省する。

 ほんの少しだけ。

 その日の電話は、気まずい雰囲気で終わった。


 しかし、そこでめげる私ではない!


 私は前向きに捉えることにした。

 会っていないから付き合えない。

 じゃあ、会えば付き合える!


 よし、会いに行こう!


 ちょっと……いや、結構遠いけど。

 電車で2時間以上ぐらいかかるけど。

 行けない距離ではない。


 西川くんは一人暮らしをしていると聞いていたので、突然行ってもご両親に目撃されて迷惑になることもない、と思っていた。


 私は鈴ちゃんに早速このことを相談した。

 相談したというより、こう宣伝したのだ。


「西川くんに会いに行ってくるよ!」

「え、それ西川くんと会う約束してるってこと?」

「ううん。ちがう。突然会いに行って驚かせるんだ!」


 私の発言を聞いた鈴ちゃんは、真面目な顔と真剣なトーンでこういった。


「行かないほうがいいよ」


 それはそうだ。

 なにがって、西川くんに多大なる迷惑がかかる。 

 私はようやくそれに気づいて、冷静になった。

 さらに鈴ちゃんは、たたみかけてくる。


「会う約束してないなら、行って西川くんが留守だったらどうするの?」

「そうだよね……」

「それに、行くとしても日帰りじゃ無理な距離だよ。どこに泊まる気?」

「えーっと……」

「ダメだよ、無計画で相手に何も伝えずに行ったら。千世ちゃんひとりだと事故とか事件に巻き込まれそうで本当に心配」


 親友は本気で私の心配をしてくれていたのだ。

 本当にありがたい。

 良い親友を持った。


 当時、私も親友の言葉に目が覚めた。

 自分がかなり暴走していたことを、ようやく実感できた。


 さらに、親友は確信をつく一言を発した。


「千世ちゃんさ、こんなこと言いたくないけど、彼氏ほしいって気持ちが前に出過ぎじゃない?」

「えっ?」

 

 ドキリとした。

 事実だからだ。

 鈴ちゃんは黙り込んだ私に、こう言った。


「西川くんのこと、本当に好き?」


 その質問に、わたしはうまく答えられなかった。

 

 彼氏になってくれそうな人がいる。

 だけど、私は恋をしているのだろうか。

 ……たぶんしてない。

 ひとりで空回りしているだけだ。

 鈴ちゃんも、私の話ぶりでそれはすぐにわかったのだろう。


「千世ちゃん、もう少し冷静になろう。それで春になったら西川くんが愛知に来るからその時に会おうよ」


 鈴ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。

 フォローもうまい。

 ちなみに鈴ちゃんは、美少女だった。

 それに比べてわたしは、鈴ちゃんの真逆だな、と思った。


 さて、冷静になった私は、その日の夜に西川くんに電話をした。

 西川くんに内緒で、西川くんに会いに行こうとしていたこと。

 それを鈴ちゃんに話したら止められたこと。

 さすがに本当に好きかどうかの話はしなかったけど。

 

 すると、西川くんは少しだけ笑いながら言った。


「いや、別に会いに来られても迷惑じゃないけど、でも」

   

 西川くんは少しだけ考えてからこう続けた。


「だって、会ってみたら全然、気が合わないかもしれないよ」


 さすがに西川くんの言葉に、「電話でこれだけ盛り上がるのに、会って気が合わないってことはないと思う」とは反論したが。


 西川くんはこうも言った。


「おれ、やっぱ千世ちゃんのこと気になるって言ったの取り消す」

「えっ? そっか。いろいろと迷惑だったよね」

「そうじゃなくて……。おれも彼女が欲しいっていう気持ちが強くて、たぶん本気で千世ちゃんを気になってたわけじゃない。無理に好きになろうとしてた」


 西川くんの言葉に、わたしは何も言えなかった。

 私もまったく同じ気持ちだったからだ。

 

 こうして私たちは、それ以降はほとんど連絡を取らなくなっていた。

 私は気まずいし、西川くんもちょっとは気まずかったんだろうし。

 とにかく、この関係は前に進むことはなくなった。


 春になり、西川くんが愛知に来た。

 私と鈴ちゃんと、西川くんの男友だちの合計四人で名古屋で遊んだ。


 私はその時すでに新しい好きな人がいたし、西川くんも好きな人ができたと聞いていた。


 実際に西川くんと会うと、まったく話せなかった。

 気まずいという気持ちもあったが、それだけではない。


 実際に会うと話のテンポやリズムなどが、微妙に嚙み合わないのだ。

 なので、私と西川くんはお互いに話さなくなっていった。

 こればっかりは、どうにもできない。

 

 冬の嵐のような私の恋愛未満の感情は、芽吹くことなく、春になる前に土に還ったのだ。

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