第17話

…眩しい。着替えよ。


リビングには、すでにお兄がいた。

「おはよ。花梨。」

「ん…おはよ。」

珍しい…昨日のことが、嘘みたいだ。…実際、嘘だったのかな。

「それじゃあ、俺はもう行くから。」

「え、早すぎない?」

「…良いだろ。」

「沙紀ちゃんか。」

「良いだろ、好きなんだから。」

「そうだね。行ってらっしゃい。」

昨日のことが、嘘でありますように…。

「急がなくっちゃ。」


今日も1日が始まる。


・・・


学校から帰って来た。お兄はまだいない。

さーて、今日は配信日。今日も7時から始めよう。何人来てくれるかなー。

「…… はぁ…」

だめだ……ついお兄のことを考えちゃう。お兄、帰ってきてね。


5時頃になってからお兄は帰ってきた。

「ただいまー。」

何事もないような顔をして、いつもと変わらない声色で――。

「おかえり。お兄。」

……良かった…。



7時。配信開始。

「こんさらー。Saraの部屋にようこそー。」

|:待ってました!

|:キタ━━(゚∀゚)━━!!

|:((o(´∀`)o))ワクワク

「皆ありがとー。あ、聞いてほしいことがあるんだけどね、今日さ、道でキツネを見てさ、すごくない?皆はキツネ見たことある?」

|:キツネ!?

|:見たことない

|:1回だけ

|:よく見るけど?

「…そっか、住んでるところによって違うのか。……はぁ…」

|:ため息?

|:どうした?

|:どしたん?話聞こか?

「ああははは、大丈夫大丈夫。…… 大丈夫だから。気にしなくていいよ?」

|:大丈夫じゃ、ないよね。

|:…(何も言えない)

|:味方

|:話してみな。受け止めてやるよ。

|:大丈夫。

「っ…皆…でも… 」

|:背負うものを軽くしないと、いつか倒れる。

|:倒れたら、元も子もない。

|:だから、(せーのっ)

|:話してみて。

そして、同じコメントが、まるで図ったかのように流れていく。

「…そっか…皆、同じ気持ちなんだ…。」

|:(頷く)

|:そうだよ。

|:当たり前。

「…………それがね…お兄の様子がおかしくて。昨日、生きる理由を見失っちゃったって……だけど今日はいつも通りで…。……どうしちゃったんだろう……。どうすれば、良いんだろう…って…。」

|:…

|:月陰が…?

|:うそだろ

|:これは…うん。

|:思ってたよりも

|:しょーげき

|:マージか(速乾プラス)

|:↑フザケルナ

|:あ、月陰の動画が更新されてる。

「え…?お兄、どうして…」

見ると、5分前の更新だった。たったの10秒の動画。サムネは真っ黒で、タイトルは、無題。

再生、した。

『誰か、僕を、見つけて』

「……聞こえた…?」

|:聞こえた

|:一大事

「……配信をスマホに移して、いや、ツブヤイターで通話機能開く!そっちにきて!」

|:了解。

|:臨時配信。

|:りょー

配信終了。すぐにツブヤイターを開く。

すぐに皆来た。

靴を履いて、外に出る。鍵を閉める。

「行ってきます。」

もうコメントは見れない。

「Yuna、いるでしょ。マイク渡すからコメントで有益なの読み上げて。…お兄…どこにいるの…?」

覚悟を決める。

「…お兄は今日、グレーの上着と黒いズボンを着ているの。ここはA県のB市。近くに住んでる人、頼んだよ。私は、お兄が行きそうなところに行くから。」

『皆了解って。』

「ん。関係ないことコメントしないでね。」

さて…まずは……。



3箇所回り、全部はずれだった。

『D橋の付近で見かけたって。車に乗ってて確信はないらしいけど。』

「D橋ね。ここから6分か。ありがとう。」

私は走る。


橋の上には、いない。

橋の下に行く。


「はぁ…はぁ……っ…見つけた…。」

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