第15話

月曜日になった。いつもの場所に行ったら、もう沙紀が来ていた。

「おはよう。」

「ん…おはよ。」

何も話さずに学校に向かう。いつも通り。こんな時間が心地良い。気を使わなくて済む。空気を読まなくて良い。気まずくならない。自分を偽らなくて良い。沙紀といる時の自分が『本当の自分』だと思える。


学校に着き、教室に入り、スイッチを切り替える。

「おはよー!」

「おはよう翠人!」

「ねぇ見たー?Vチューバー四天王の配信!」

「見た見た!」

…月陰でーす。なんてことは絶対に言わない。

「いや~まさかあんな過去を背負っていたなんて。」

「だからこそ、応援したいな。」

「そうだね。」

テキトーに相槌を打てば何も起こらずに済む。

「……なぁ、翠人。」

「何?」

「嘘、ついてるな。」

「何言ってるの!?」

「ついてるな。」

「…ついてない。」

「ついてる。お前は嘘をつく時に左下に目線をやる癖があるんだよ。」

「……マジか…。」

「俺の親父さ、新聞社で働いてるんだ。」

あー……これ、こういう流れだな。

「月陰が言った事故について調べてみたら、被害者のところに水谷の文字があったんだ。そして、風上の文字も。これ、沙紀さんの名字だろ。」

もう、隠せないなぁ…

「つまり、月陰は翠人で、Yunaは沙紀さん。合ってるか?」

「はぁ…よくもまぁそこまで調べたな…合ってるよ。ったく…もうバレるとは思ってなかったよ。」

「……そうか。」

キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴る。

「絶対に言うなよ」

「わかってる。」


・・・


はぁ………昼休みになったからいつもの場所に行こう。

扉をノックする

「合言葉は」

「そんなものあったっけ」

「よろしい。」

「なぁ、沙紀、バレた。」

「ん?」

「月陰だってこと、バレた。」

「……私の、事も」

「うん。」

「そっ…か。いずれバレるとは、思ってたよ。」

「……どうしようか。」

「分からない。」

「だよなぁ。」

……どうしようもないことは、分かりきってるのに。

「お弁当、食べる。」

「そうだね。」


逃げたくない……そう言った。でも、また逃げたいと思ってる。

沙紀となら、なんとかなるのかな…。

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