『■destiny□』

マーまーまき

第1話 今日から俺は変身です


「あーあ。この星も滅んじゃった。まーた給料3か月カットじゃん…」

「アホ!バカ!給料ドロボー!なんだよ!『闘争で物事を決めるのは尊い』って張り切ってさ!これじゃァR18掛かって子供の娯楽になんないよ!」

「フぁ?だってそうじゃん!ほらこれ!創作物のお決まりとして『世界に一つのお宝を大勢の人間で奪い合う』があるじゃん!それにのっとっただけでしょ!」

「登場人物みなが殺し合いなんてしないんだよアーホぉ!!息抜きないとむさ苦しい男の取っ組み合いを延々と見せられるだけなんだぞバーカぁー!!」

「何よ!『オムニバス』『世界線の共有』なんて小難しいことしかしないくせによく言うじゃん!」


罵声を挙げながら、互いのミスを罵りあう二人、「ヴァリルルス」「バスニツム」。


彼らの仕事は『娯楽請負人』。

皆が憧れたことはあるであろうスポーツ選手、ヒーロー物等々の果て、つまりは自身の手で他の地に『ヒーロー』を作り、者どもの軌跡を記録、放映するといったところか。


「ハァ……まーたやってんじゃん。君ら」

扉一枚隔てた先で論争を聞きつけた鼻高青髪のくせっ毛ヘアーの「マキリ」が、頭をポリポリ搔きながら仲裁に入る。


「マキリさん!ねぇねぇ!バスニツムの所為で3か月給料抜き!」

「はぁ!?今回のミスはあんたのよ!」


「待て待て待て!ハーっと息吸って落ち着け。」

そうなだめるマキリと言う男は、二人の間に割って入り、機械を素早く操作し、次の星に焦点を当てる。


「お前らがミスりまくったら流石に俺も飢えてしまうからな……今回は特別に出世用に見つけておいた虎の子を投下するしかないな」




~日本国~


「今日、謎のコスプレイヤーが各地に」

「支配すること以外知らないお前なんかが、私の夢…いや、『共有』されてきた仲間の何がわかる! 必殺!『Slashスラッシュ rushラッシュ smashスマッシュ!!』」


「あ…ああああああああ!」

「紀保!朝っぱらから大声出さない!迷惑よ!」


俺の名前は「遠鳴とおなき紀保きお。」

日曜日なのに模試の所為で学校がある可哀想な高校生だ。

今日は少年たちが道半ばで倒れながら希望をつないでゆく激熱アニメ『私達の希望【共有】剣、キーボソード!』の最終回だったのだが、見事に寝坊。ラスト数分見れたからせめてもの救いだと思う?

いいや違うね。母さんがニュースの録画をしている今、覚醒シーンを見れなかったことは今日一日引きずることだろう。


その後時間がないってのに10分間も𠮟られ、送りはとても気まずい気分で学校へと連れられた。


「よ!紀保!キツイ顔してどうした?ほら、試験前のポッキ栄養ー!」

「お、さんきゅ。 ま…キーボソードの最終回、録画もできてないうえに、ほぼ見逃してもうたんよ!」

「ハハッ。俺は録画してるから大じょーぶさ!……念押しだが、ネタバレやめろよ?」

「覚醒シーンもみれてな

「そぉれがネタバレだろうがぁ!!」

「わわ!ごめー…いったぁ!」


こいつは俺の唯一の親友、「早坂 介斗かいと」だ。

考え方はおろか、趣味のほとんどが現在進行形で一致。

ホント運命かというぐらい、高校早くから意気投合した。


「あーーーー!めっちゃ気になるやん!キーボソード自体の伏線忘れようとしてたのに!リスニング終わったー!」

「ハハハハハ!これで俺の番数が上がるぜ!」

「きったねぇ~!」







校舎外、自転車置き場にて。


「ハァはぁははぁ……サドルの暖かさ…いい」

中年と思わしき男が一人、確実に女子のものであろう水色の自転車のサドルに頬をこすり、グリップをぎゅっと握る。

その時、



「パンパかぱーん!パンパンパパンパかぱーん!」

「うぅヴぅァァァ!?!?」


突如として空からけたたましい人工ファンファーレが鳴り響く。

「そこのあなた!あなたは選ばれました!隠した願いを解き放ちましょう!」


と言い終えた瞬間、空からは腕輪のようなものと、その挿入口に入れるであろう2枚の無地のカードが落ちていた。


「それは『クオリフィニー』!そのカードを手に取って、正直誠実に楽しんで最後の最後まで人生を謳歌しよう!」

「………俺が…何でもしていいのか?」

その疑問が聞こえなかったのかはわからないが、それを最後に、ぱたりと声は止んだ。


男が二枚のカードを手に取り、「なんだこれ」と、腕輪に入れても何も反応がしないことを確かめたのち、またサドルに頬を擦ろうとした瞬間、


「なんだお前!」

「ヴっ」


一人の教員が、その行動をとがめる。


この瞬間、男のには、大きな思いが一つ渦巻いていた。


なんで邪魔するんだ。

いや、あの大声女がばらしたんだ。

あいつら許せない。


―――俺のやりたいことなめまわしを邪魔すんな。


カードに光が宿る。

「!これは、自転車と…服装?」


気を取られた瞬間、ビュン、と何かが男に襲い掛かる。

その長い棒に押さえつけられた男は、思考が追い付かなく、その分ストレスが積もる。


「克堂先生!それは…」

「人生何があるか分からん!やはり文句を言われようとも腰には木刀、背中にはさすまたに限るわ!」


クソが、くそが、くそがクソがくそがぁ!!

俺のやっていることはそんな悪いか!今の時代なら木刀持ってるだけでも文句言われるってのに……なんで俺だけ!


最後の抵抗か、二枚のカードをこっそりと腕輪の中に入れる。

―――このさすまた教師のように、俺も、やりたい事を貫く力を、自由に女の子を舐め回すことができる力を―――


光る。

宿る。

服が、

あの自転車が、

俺の力に。



―――さあ。君はあんな形でも力を手に入れたんだ。ヒーローらしく名乗りを。


男の声がする。

そんなのはどうでもいい。

この高揚感を名乗り以外でどう表す。


「今日から俺は………………変身でぇす!」

その思いに、ついに腕輪が答える。


【twin connect! リックサドル!ゴスロリータ!  desire:バイロリック!】


「な………」

「カッ………………」

黒いロリータ服に身を包んだ男の背中に、自転車のタイヤが張り付く。

その髪の毛は短髪からつやつやの黒髪ロングへと。


「せぇーーーぃ!!」

スカートからブリーフが覗くかというぐらいに挙げた足を振り下ろし、一撃で克堂のさすまたを打ち壊す。


「篠原君!至急110番を!」

「克堂さんは!?」

「さすまたなんて壊れることもある!そんな子供の頃憧れた変身ヒーローみたいだと思うな!」

慌てる篠原先生を怒鳴りつけ、腰から木刀を抜いて変態ロリータの前へ立ちはだかる克堂。

だが。

「どけどけどけ~!!!」

回避が間に合わなかった二人を纏めて、男が顕現させた自転車が轢き飛ばす。




「はぁははぁ…多分今みんなテスト中だし、俺は今これで我慢するよ」

腕があらぬ方向に折れて気絶した克堂や、頭部が割れている篠原を完璧に無視して、男はサドルやグリップをなめるのであった。








「………マキリさん、これでもやし生活が終わるのですか?」

「1ヶ月は結果出るまで待機。悪はヒーローの覚醒において多く欲しい。」

「」

「ちょっと!バスニツム!?しっかり!しっかり―!!」


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『■destiny□』 マーまーまき @marumasa0940

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