第15話 初めての街探索

 大愛さんは休むとのことで僕は家に帰ってきた。

 とはいえ、僕のほうはまた手持ち無沙汰になってしまった。


「どうしよ、散歩でもしようかな」


 あ、そうだ、どうせ散歩するなら……


「魔石を用意してっと……よし、これで!」


 ダンジョンを開いてその中へ入る。


「おー、ここがレントバーグの街かぁ」


 僕が入ったのは、ダンジョン内にあるレントバーグの街。

 実は僕自身がここに入ったの初めてなんだよね。

 作った時はまだ魔石システムがなかったから入れなかったけど、一度は入ってみたかったんだよね。


「おー、こうしてみると、よく出来てるなぁ」


 なんとなく周りを見回しながら歩く。映像越しに見るのと、実際に自分が歩くのは大違いだ。

 街中を歩く音、風の感覚、匂いは画面越しでは届かなかった。

 皆こういう感覚だったんだなぁ。

 とはいえ、


「人はだいぶ少ないなぁ」


 映像で見ていたときよりも、通りを歩く人が少ない。

 しかし、それも当然。


「閉鎖はちゃんと効いてるね」


 この街をはじめに、他のダンジョンもメンテってことで明日までは閉鎖してある。

 不満は出てたけど、こればっかりはね……


 さすがに魔王襲来に対して、このダンジョンに引きこもられたらたまったもんじゃないからね。


 だから今街を歩いているのはこの街の住人たちだけだ。

 一応全員育てたのは僕だから、僕の子どもみたいなものだけど、こうやってちゃんと暮らしていると感慨深いものがあるね。


「おっ、ここが冒険者ギルドか」


 適当に歩いていると見覚えのある建物の前まできた。


「入って……いいよね?」


 中をちらっと見た感じ、人は少ないけれど営業はしているっぽい。

 地球の冒険者たちはいないけれど、この街の住人向けに営業はしているからね。


「おじゃましまーす」


 小声で挨拶をしながら入る。

 ドアにかかっていたベルがチリンと音をたてた。

 なるほど、こういう感じかぁ。


「こんにちは、初めての方ですか?」


 キョロキョロと見回していると、受付にいた子が話しかけてきた。

 この子はこのギルドの看板娘、ケットシーのミーシャだ。実際みると本当にかわいいな。

 っと、


「いや、えっと、一応、初めてかな?」


「そうですか、それでは冒険者ギルドについて説明いたしましょうか?」


「あ、いや、それは大丈夫。よく知ってるからさ」


 僕がそう言うと、ミーシャは首を傾げた。


「よく知ってる? あれ? そういえば、あなたのこと、どこかで見たことがあるような?」


 ミーシャが僕の顔を覗き込む。ひょっとしてまだ覚えててくれたとかかな?


「うーん?」


 悩んでいるみたいだけど、どうしたもんかな。


「……飛鳥様」


 思い出した……わけじゃないよね? ミーシャじゃない。この声は……

 声のした方を見ると、


「ミミ! お疲れ様」


 ミミが奥の階段から降りてきていた。


「ギルマス! この方とお知り合いですか?」


「ええ、もちろん、なにせ私のマスターですから」


「えっ? ギルマスのマスターって……えっ?」


 ミーシャの顔がミミと僕をいったりきたりしている。まぁ、ちゃんと名乗っておくか。


「僕は瓜生飛鳥。ダンジョンマスターをやってるよ」


 育ての親ってのは、まぁ、これで伝わるか。


「……ぇ……ぇええええええええ!」


 ミーシャの驚愕の叫びがギルド内に響き渡った。



「ここがギルドマスターの部屋です」


 ミミに案内されて2階の部屋に来た。部外者……ではないからセーフか。


「飛鳥様だ!」


「おっと!」


 部屋に入るなり、いきなり抱きつかれた。


「ミミ、危ないじゃないか」


 抱きついてきたのは、もうひとりのミミ。黒ミミと呼んでいた方だ。


「へへっ、ちゃんと計算しているから大丈夫ですよ!」


 まぁ、本気で抱きついてきてたら僕は木っ端微塵だからなぁ。


「ふむ、では私も……」


「へっ?」


 後ろにいた白ミミの方も抱きついてきた。うわぁ、なんか柔らかいんだけど?


「1人だけでは不公平ですから」


「感覚はお互いに伝わるから2倍だけどね」


「そして飛鳥様も2倍楽しめると。悪い点はありませんね」


 二人は元々同じ存在だからね。

 両手に花っていうか、前後に花なんだけど。


「いや、動けないんだけど?」


「それは我慢しましょう」


「そうそう、たまには労をねぎらってくれてもいいと思うんですよね!」


 確かにミミには色々とお世話になってるし。


「はぁ、しょうがないか」


 そうして、しばらくそのままで天国を味わうのだった。



「ということでいよいよ明日だよ」


 しばらくした後、僕らはテーブルにつき近況の話をしていた。


「うーん、ついにですかぁとはいえ、私たちはあんまりやることないんですけどね」


「いつも通りダンジョンを管理するだけです」


 ミミたちは戦闘に出てもらうことはせず、ダンジョンの管理に集中してもらうことになっている。


「いやいや、それだって十分重要な仕事だからね。ミミたちがいなかったらダンジョンの管理なんてできないんだから」


 要するにミミたちは魔王の魔素からダンジョンを守るっていう役割をしてもらうわけだ。

 ある意味では一番重要な仕事とも言えると思う。


「いえ、ダンジョンの管理はいつものことですし」


「やっぱりちょっとくらいは戦った方がいいんじゃないですか?」


 いやぁ、それもちょっと考えたんだけどさ。

 万が一、ミミが絡め取られて敵側に回っちゃったりとかするとね……それこそ終わりなので。

 最前面には出せないんだよ。


「魔王が何してくるかはわからないからね。そういう時に全体を管理できている存在っていうのは重要なんだよ」


 そうして必要な情報を整理して僕に渡してくれる。それだけで本当に助かるんだから。


「だから、明日もよろしく頼むよ。ミミ」


「ええ、お任せください」


「あっさりと終わらせてみせますよ!」


 2人は表情こそ違えど、自信満々な様子でうなづいたのだった。


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