第39話 悪魔の特性

「お兄ちゃん! 大丈夫!?」


 雛香が僕に抱きついてきた。


「大丈夫だ。ポーション沢山使ったからな。雛香も使っておけよ」


 雛香も沢山ポーションを持っているはずそれを使えば少しは体力も回復する……


「……雛香?」


 雛香は僕に抱きついたまま動かない。


「……心配かけちゃったみたいだな」


 前にもこんなことがあった。

 あれは僕が誘拐されたって勘違いして真田さんの家まで来た時だったか……

 あの時は暴走していた雛香だったけど……


「よく時間を稼いでくれたな。偉いぞ」


 僕は雛香の頭を撫でる。

 雛香はきっとすぐにでも僕のところへ駆けつけたかっただろう。

 それでも、雛香は我慢して悪魔と戦うことを選んだ。

 些細な違いではあるけれど、これは以前の雛香だったらありえない選択だ。


「心配した……でもお兄ちゃんならきっと大丈夫だって信じてたから」


「そっか」


 これもお互いの気持を確認した結果なんだろうか。

 しばらく雛香の頭を撫でると、雛香は落ち着いたようで身を離した。


「大丈夫か?」


「うん、もっと甘えてたいけど、それどころじゃないもんね」


 すっかり成長したなぁ……けど……


「雛香……」


「何……んっ!?」


 これはこれで寂しいものがあるよね。



「さて、どうするか作戦を考えようか」


「うん」


 雛香と2人並んで空を見上げながら話す。

 上空では悪魔とレインさんが互いの魔弾を打ち合っている。

 レインさんが射程を保っているから、1人でもなんとか戦えている。

 それでも、幻覚や精神攻撃を使いこなしてくる悪魔には苦戦しているようだ。


「雛香、レインさんと2人で協力したら倒せるか?」


「うーん……どうだろ……今のままなら倒せると思うんだけど」


 雛香は不安そうだ。

 確かに、あの悪魔の攻撃はなんとなくパターンが少ない気がする。

 なにか隠し玉があっても不思議じゃない。

 何より、実際に戦っている雛香が違和感を覚えているのだからその感覚は信頼できる。


「そうなるとやっぱり何かしら考える必要があるなぁ」


「お兄ちゃんの力でなんとかならないの?」


「うーん、多少動きを狭めることくらいならできると思うけど……いや、やっぱりさっきとあんまり変わらないかなぁ」


 魔力に関しては、お互いがどれだけ魔素を引っ張れるかにかかっている。

 さっき戦ったところ、その力に関してはほぼ同等くらいな気がしている。


「うーん……どうしたもんかなぁ……」


 ちょっと情報が少なすぎるんだよなぁ……


「あっ……そういえば、気がついたことがあるんだけど」


「うん? なんだ?」


「なんかさっきお兄ちゃんと2人で戦った時よりも雛香が1人で戦っていた時のが弱く感じたんだよね」


「……確かに1人で抑えられてたんだもんな……」


 僕が逆に邪魔している?

 いや、多分違う……よく考えろ……


「……雛香、ちなみに今のレインさんの戦いを見てどう思う?」


「えっ? うーん……雛香1人の時よりは強いけど、お兄ちゃんと一緒の時程じゃないって感じかな」


「なるほど……」


 1つ推論が浮かんだ。


「あいつひょっとして僕らの悪意を増幅させた分だけ強くなってるんじゃないか?」


 そもそも考えてみたら呪いの効果からして悪意……人のマイナス感情を増幅させるって効果だ。

 そこに何かしらのメリットを持っていてもおかしくない。


「じゃあ……逆だったら?」


「お兄ちゃん?」


 あの悪魔を倒す方法を1つ思いついた。



「ミミ聞こえるか? 里楽さんにも聞こえるようにしてくれ」


 すぐにミミに呼びかけた。


『了解しました、音声をオンにします』


「飛鳥さん!? 大丈夫なんですか?」


「うん、レインさんに助けられた。ありがとう」


 ほんと、あのままだったら結構大変なことになってたと思う。


「……飛鳥さんが落ちた時は心臓が止まるかと思いました」


 どうやら里楽さんにも心配をかけてしまったみたいだ。

 まぁ、その話はまた後で……


「とりあえず、映像を見ているならわかっていると思うけど、今、あの悪魔の対策を考えているんだ」


 僕は里楽さんにあの悪魔についての考察を話す。


「なるほど……それでネガティブとは逆のポジティブな感情をぶつけようということですね。つまり……」


 里楽さんはすぐに僕のやろうとしていることを察してくれた。


「そう、で、里楽さんにお願いがあるんだ」


「わかりました。すぐに案をまとめます。2分ほどください」


「助かる。ミミ、議論している場合はないから里楽さんの案を聞いたら即座に実行できるようにしてくれ」


『了解いたしました』


 うん、とりあえず、これで大丈夫。

 あとは里楽さんの案待ちだ。


「ふー……雛香?」


 気がついたら雛香が少し離れた場所から空を見上げていた。


「レインさんの戦いを見ていたのか?」


「うん、なにかわからないかなって」


「そっか、なにかわかったか?」


「ううん……さっき以上のことは何も……こういう時里楽ちゃんだったらなにかわかるのかな……」


「雛香……」


 ひょっとして雛香も精神魔法の効果受けてたり……


「なんてね! 雛香は雛香のできることをやるだけだから!」


「うん! それで良し!」


 そう、人には人によって向き不向きがあるもんだよ。

 僕は雛香の頭を撫でる。


「飛鳥さん! お待たせし……たようですね」


 ちょうど頭を撫でているタイミングで戻ってきた里楽さんの声はちょっと呆れた感じだった。


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