第8話 里楽さんの攻略その2

 休み休みだったが、堅実に進んだ里楽さんは無事にボスの間へと到達した。

 流石に他の人がやっていたところを見ていたので、里楽さんは特に迷う事無く賢さの魔法陣を選択する。


「おっと、そうだった」


 忘れるところだった。


「お兄ちゃん? どうかしたの?」


「いや、ちょっと録画でもしておこうと思ってね」


 録画してあとで真田さんにでも送ろうと思ってたんだよね。

 別にいやがらせってわけじゃないよ。


「いいね、それ! 雛香もパパとママに送りたい!」


 あー、そういえば、結局大型連休でも忙しいのか帰ってこれなかったしなぁ。

 近況報告的に連絡してもいいかもね。


「まぁ、それは後でな。今は里楽さんのボス戦を見守ろう」


「うん!」


 というわけで、視線を里楽さんへと戻す。

 里楽さんはちょうど、扉をくぐってボスを見つけたところだった。


「賢さはどんなボスなの?」


「まぁまぁ、見てなって」


 例によって影が立体になっていく。

 そして、変化した後には……


『……本?』


 1冊の本がそこに浮いていた。


「なんか賢さっぽいね」


 まぁ、賢さのイメージって言えば、本か眼鏡って感じだよね。


「でも、本とどうやって戦うの? 破るの?」


 随分と野蛮なことを……


「これは賢さのボスだぞ、頭を使って戦うんだよ」


「うーん?」


 浮き上がった本は、里楽さんに見せるようにページを捲っていく。


『何かの絵柄? ……剣……盾……回復にピエロ?』


 ページには様々な絵柄が書かれている。

 そうして、終わりまでページを捲った本は再び開き、今度はそのページをばらまき始めた。


「倒した!?」


「なわけないだろ」


 むしろ、戦いはここからだ。

 地面にはばらまかれたページは全て同じ真っ白い面を表にしている。


『……まるでトランプ……ひょっとしてカードめくりですか?』


 このシャドウミミクリーには通常攻撃は一切効かない。

 神経衰弱の要領でお互いに2枚ずつページを捲っていき、同じ絵柄を引いたらアクションに成功する。


 例えば、里楽さんが攻撃の絵柄を揃えて、シャドウミミクリーが絵柄を揃えられなかったら攻撃が成功する。

 しかし、シャドウミミクリーが盾の絵札を引いたら、攻撃は無効になる。

 逆の場合は里楽さんがダメージを受けることになる。

 これを繰り返していって、お互いのHPを削り合う。


「という感じだね」


「なるほど?」


 雛香には丁寧に説明したのだが、お前、それわかってない返事だな?


「まぁ、要するに絵柄を揃えていけばいいんだよ」


 さて、里楽さんはその辺り理解したかな?


『……相手は動きませんね……とりあえず、こちらからめくりましょうか』


 里楽さんはまず自分に一番近いところからページを1枚捲る。

 そこに書かれていたのは、剣の絵柄、攻撃のページだ。

 里楽さんはちらっとシャドウミミクリーに目を向け、動かないことを確認して別のページを捲った。


『……盾』


 残念ながら1枚目とは別の絵柄だった。

 開いたそれは、里楽さんの手から勝手に離れて再び白い面を上にして地に落ちた。


 これで最初の状態に戻ったわけだ。

 そして、今度はシャドウミミクリーの番。


『……動けませんね……妨害はできないというわけですか』


 相手がページを捲っている間は動くことができない。

 シャドウミミクリーが捲ったページは、両方とも剣の絵柄だった。

 つまり、シャドウミミクリーはこのターンに攻撃、対して里楽さんは無手だ。


『……うっ……』


 宙に浮いたページが合わさり、光線が里楽さんを攻撃する。

 里楽さんのHPが減少した。

 そして、シャドウミミクリーが捲った場所には、新たなページが補充された。

 ページがなくなることはないってわけ。


 そして次はシャドウミミクリーがカードを捲る番だ。


「と、こんな感じで戦っていくわけ」


「なるほどね、記憶力が重要ってことだね」


 うん、まぁ、基本は神経衰弱だからね。

 ただ……もちろん、ただの神経衰弱で終わるわけはないんだけど。


 お互いに順調にページを捲っていく。

 勝負は里楽さんが優勢。一度捲ったカードをしっかりと覚え相手のアクションに合わせて、攻撃や防御を決めていく。

 このままならば倒すことができる、そんな時だった。


『……ピエロのカード?』


 里楽さんが捲ったカードにはこれまでにない、ピエロの絵柄が書かれていた。


「おっ、ここで来たか」


 このページがこの戦いの重要なポイントだ。


『いえ、ピエロというよりは死神でしょうか?』


 一見すると怪しげなマスクでピエロみたいだけど、よく見たら鎌を持っていることから死神なことがわかる。


『いい予感はしないですね……』


 安全に安全をとった里楽さんは、あえて絵柄を知っているカードを捲り死神が揃うのを回避した。


「ジョーカーってこと? 揃えるとどうなるの?」


 ジョーカーっていうのは、カードゲームに応じて役立ったり、邪魔になったり効果が様々なカード。

 この戦いにおいては、


「まぁ、死神だからね。そのまんまだよ」


 死神を揃えてしまうと、引いたその人自身が大ダメージを受けることになる。

 今のこの状況だったら、お互いに引いた途端に負けが決定する感じかな。


「つまり、この戦いはジョーカーを引かないことが一番の戦いなわけなんだよ」


「なるほど?」


 わかってなさそうな雛香。


『このタイミングで現れたということは……』


 まぁ、里楽さんはわかっているみたいだけど、勝負が進むにつれてジョーカーは枚数を増やしていく。

 その全てを覚えつつ、戦いを進めていくことが重要だ。


『……リスクを計算しなくてはいけませんね』


 里楽さんはそこで方針転換をして、ページを揃えることよりも多くのページを捲り位置を記憶することを重視するようになった。

 1枚目に安全なやつを引けば、もう1枚も安全なやつを引くことができる。

 そうして記憶していけば、もしも、1枚目にジョーカーを引いてしまっても、記憶している安全なやつを引ける可能性が高くなる。


 ただし、そうしている間にもお互いのHPは削れていく。

 里楽さんがページを揃えなくなったため、徐々に里楽さんのHPが削れていく。

 いつの間にか、残りHPは里楽さんの方が不利になっていた。

 そうして、残りHPは里楽さんが残り1回攻撃を受けたら終了というところまできた。


「このままじゃまずいよね!」


 雛香が慌てているけど、里楽さんは冷静にページを捲る。

 1枚目が剣の絵柄、2枚目が剣だった。


「うん、この勝負は決まったね」


「えっ? でも、ボスも剣のページを揃えたら……」


 雛香はまだわかっていない。


「残念ながら、それはできないね」


 シャドウミミクリーがページを捲る。

 1枚目は死神の絵柄、そして2枚目……死神の絵柄だった。

 死神のページが合わさり死神が顕現した。

 大きな鎌を振りかぶり、シャドウミミクリーに向かって振るった。


『私の勝ちです』


 その宣言通り、シャドウミミクリーが光となって消えていった。


「やった! 里楽さん勝ったよ!」


「うん、最後まで焦らなかったね」


 里楽さんは普通の攻撃を放棄してページの把握を進めていたんだ。

 ゲームが進むにつれてジョーカーは増えていく。

 そうすると、いずれ場のページのほとんどがジョーカーになっていく。


 あとはタイミングを見計らって、相手にジョーカーを引かせるだけだ。

 結果的にHPがギリギリになってしまったけど、ちゃんと防御を引いていたからそこまで計算できていた結果だったりする。


「という感じだったわけ」


「……???」


 なるほども出ないかぁ……

 これは雛香にはクリアできないボスだったかなぁ……まぁ、ともかく、


「おめでとう、里楽さん」


 里楽さんは、無事に賢さの種を手に入れることに成功したわけだ。


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GW投稿4日目になります!

調べたらスマホ版カクヨムだとトップページに戻ってレビューに行かないと☆のやつ出てこないっぽい?

わざわざそこまでいくの大変ですよね、というわけでカクヨムアプリだと下にスライドさせると出てくるっぽいのでよろしくお願いいたします。


追伸:

独自のゲームのルールが少しわかりづらいと思うので解説します。

今後出てくることはないので特に覚える必要もないです。


まず冒険者がカードを2枚めくり、その後にシャドウミミクリーがカードを2枚めくります。

これが1ターンです。

その2枚のカードの絵柄が同じだった場合、アクションが発生します。攻撃、防御、回復など様々です。


揃ったカードはその場から消えますが、新たに補充されます。その時に揃わなかった場合は、そのままの位置で残ります。

基本ルールとしては、これを繰り返していき、お互いのHPを削った方が勝ちです。


ただし、勝負の途中からジョーカーが登場してきます。ジョーカーは引いた人に大ダメージを与えるカードです。

しかも、ジョーカーはゲームが進んでいくにつれて補充される回数が増えていきます。

なので、基本はジョーカーを引かないようにすることが重要です。


ざっくりとですが、こんな感じです。

ゲームを考えるのって難しいですね……



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