閑話 とある兄妹のデートその1

「こっちだよ! お兄ちゃん!」


 雛香に引かれて、街中を行く。

 朝倉さんたちがいる街からはすでに離れ、今は雛香と二人きり。

 今日は約束通り、雛香と観光することになっているのだ。


「んで、結局、どこに行くんだ?」


「うーんとね……内緒」


 さっきから何度も尋ねてるんだけど、雛香は内緒だと言って教えてくれない。

 そうなると、僕は雛香についていくしかないんだけど……


 結構な時間を電車で移動し、そこから更に徒歩で20分。

 そろそろ暖かくなってきた時期なので、少し背中に汗が滲んできた。


「なぁ……」


「あっ! ここだよ!」


 雛香がそう言って止まる。

 そこに見えたのは……


「神社?」


 神社の鳥居が見える。そして、その奥には、凄い長さの階段がある。


「ここが目的地?」


 なんで神社?

 ここって有名な観光地とかなのかな?


「うんとね、ここにはとあるご利益があるんだって」


「ご利益?」


「ねぇねぇ、お兄ちゃん。なんのご利益だと思う?」


 それを僕に聞くのか?

 雛香のことだから……


「学業成就……じゃないよな? 必勝祈願とか?」


「……お兄ちゃん、雛香の事なんだと思ってるの?」


 あかん、雛香に睨まれてしまった。


「冗談……冗談だから……えっと……」


 うん、まぁ、考えから外してたけど、雛香のことだから……


「恋愛成就か、縁結び……かな?」


「正解!」


 そうだろうなぁ。


「雛香ね、最近お兄ちゃんの周りに女の子が多いなぁって思ってたの」


「えっ?」


「しかも、どの子も魅力的じゃない?」


 最近仲良くなった女の子……里楽さんくらいしかいなくない?

 朝倉さんは……また違うよね?

 いや、二人共魅力的だけど。


「わかるよ? お兄ちゃんは素敵な人だもん。好きになっちゃうのは仕方ないとして……」


「いや、誰からも好かれた記憶がな……」


「でも、お兄ちゃんは雛香のものだから! この際、お兄ちゃんときちんと縁を結んでおこうと思ったの!」


 はぁ……なるほど?

 つまり、雛香は僕と縁を結ぶために、ここに来たってこと?

 冗談……じゃないんだろうなぁ、雛香の目を見る感じだと。


「神様に宣言するんだから! お兄ちゃんは雛香のものだって!」


「あっ、おい!」


 そう言うと、雛香は僕の手を引いて、神社の境内の中へ入っていく。

 そのまま、階段を登り始めた。


「流石に危ないから手を離してくれ!」


 今更変な抵抗とかしないから。



「はぁ……はぁ……」


「ついたー!」


 200段くらいある石段を登り、やっと本殿の前まで来た。


「もう、お兄ちゃん、運動不足なんじゃない?」


 息を切らしている僕に対して、雛香はケロッとしている。

 毎日ダンジョン入っている雛香と一緒にしないでほしい。


「ふぅ……はぁ……」


 深呼吸をしてやっと落ち着いた。


「さて、それじゃあ、お参りしようか」


「ああ、そうしようか」


 歩いて賽銭箱の前まで来る。


「えっと、二礼二拍手一礼だっけ?」


 詳しいことは覚えてないけど、確かそんなのだった気がする。


「お兄ちゃん、よく覚えてるね」


 そういう雛香は覚えてなさそうだな。


「あっ、その前にお賽銭か」


 とりあえず5円でいいか。ご縁がありますようにってね。


「お兄ちゃん5円でいいの? 雛香は奮発して500円を出しちゃうよ!」


「あー、確か500円って駄目じゃなかったか? これ以上高い効果がない……みたいなこと聞いた覚えがあるぞ」


 硬貨と効果をかけた縁起みたいなものだが、まぁ、5円も同じか。


「そうなの? うーん、じゃあ1000円にしておこうかな」


「金額が高いからいいってわけじゃないと思うけど……」


「いいの! こういうのは気持ちの問題なんだから」


 それなら500円でもいいと思うけどね。

 ともかく、お賽銭を入れてっと……


「次は鐘を鳴らして……」


「雛香が鳴らすね」


 ガランガランと雛香が鐘を鳴らす。


「二礼二拍手の後にお祈りだぞ」


「うん」


 軽く教えて、僕も二礼二拍手をして目を瞑る。


 さて……何を祈るか……

 確か、こういうのは願いとかじゃなくて、決意とか感謝を述べるんだっけ?

 それなら……


(僕をこの世界に連れてきてくれてありがとう。これからもダンジョンで多くの人を幸せにしてみせます)


 我ながらこんな時もダンジョンってのは筋金入りだなぁと苦笑を抑えつつ、一礼をして参拝を終えた。


 目を開けて隣を見ると、雛香はまだ祈っていた。

 やけに真剣そうだけど……本当に僕との縁を祈ってるのか?


 冗談……じゃないんだよな……


 雛香が僕に好意を示してくれるのは今に始まったことじゃない。

 でも、いつかはきっと兄離れしていくものだと思ってたんだけど、未だにその様子はない。

 これは僕の方も色々と真剣に考えなきゃいけないかもしれないなぁ……


「なんてな……」


「お兄ちゃん?」


「あ、すまん。もう終わったか?」


 いつの間にか、雛香の方も終わっていたようだ。


「うん! ちゃんと神様にお兄ちゃんは私のです! って宣言したよ」


 そんな宣言を聞いて神様はどうするんだろうな?


「さて、それじゃあ行くか」


「うん! あ! おみくじ引きたい!」


「あー、はいはい、多分あっちだな」


 そうして、僕らは神社を後にした。

 ちなみに、おみくじの結果は雛香は大吉、僕は末吉だった。


-----

少し短いですが、雛香とのデート回でした。

次回、明後日から2章開始です。

2章開始+GWで5日まで毎日2話投稿になります。その後は毎日1話投稿に戻ります。


引き続きよろしくお願いいたします。

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