第21話

「あ! お兄ちゃん!」


 流石にやばいと思って真田さんたちと一緒に雛香を迎えに行った。

 雛香は僕を見つけると、一目散に駆け寄ってきた。しかし、僕はそれどころじゃない。


「うわぁ……」


 真田さんの部下と思われる黒服の男性がそこかしこに倒れている。

 死んでいるわけじゃないけど、死屍累々って感じだ。


「うちの部下がここまでやられるとはなぁ」


 これには、さすがの真田さんも苦笑気味だ。


「部下!? ひょっとして親玉の登場!?」


 あ、まずい。


「おのれ、お兄ちゃんを返……」


「はい、ストップ」


「むぎゅっ」


 雛香が真田さんに攻撃しようとしたのを止める。抱きしめたような形になってるけど、これが一番効くんだよね。


「ふへぇ……お兄ちゃんの匂い……」


 まぁ、その理由がちょっとあれだけど……


「雛香、僕は誘拐されたわけじゃないんだよ」


「ふへぇ?」


 それは返事なのか? それともまだトリップしてるのか?


「ちょっとすれ違いがあったみたいだけど、どのみち僕は自分の意志でここに来てるんだよ」


 雛香が落ち着くように撫でながらざっくりと経緯を説明した。


「なるほどー?」


 なんか返事が曖昧だけど、とりあえず納得はしてくれたらしい。


「すみません、真田さん。ご迷惑をおかけしました」


「いやいや、いいんだよ。元はと言えば、こっちがちゃんと説明しなかったのもあるしね」


 僕も早めに雛香に連絡を取っておけばよかったよ。


「でも、真田さんの部下の人たちに……」


 誘拐したと勘違いしたとしても、ちょっとやりすぎだよね。この人たち、大丈夫かな?


「いやいや、部下は職務を全うしようとしただけだからね。それに、女の子一人取り押さえられないうちの部下たちにも問題があるよ」


 真田さんは、訓練のやり直しだなぁなんて言ってる。随分スパルタだこと……


「ただ、ちょっとこのまま返すのは色々と問題だから、できればきっちりと筋を通したいんだけど」


「筋を通す……とは?」


 任侠的なことを言ってる? こう……けじめ的な?


「いや、そういう意味ではなく……こう、君の両親の関係的にね」


「あー、そっちですか……」


 確かに、雛香までここにいるということは、うちにも連絡が入っていてもおかしくない。というか……


「……雛香、父さん達に連絡はしたか?」


「うん? うん! ここに来る前に連絡したよ!」


 だろうね。

 こりゃ、早めに片付けないとまずいことになりそうではある。


「というわけで、急ぎで申し訳ないんだけど、もう少し付き合ってくれるかな?」


「はい」


 変にこじれる前に片付けないと。



「あー、もしもし、父さん? あ、うん……全然大丈夫だけど。その様子だと、トラブルにはなってない感じ? えっ? 母さんが今すぐ帰国するって騒いでる? 飛行機の予約寸前? それちょっとそこで止めてもらって」


 雛香を連れて先程の部屋まで戻った。

 急いで父さんに連絡を取ったんだけど、父さんはともかく母さんがパニクってるみたいだ。


「あー、なんか、後ろから聞こえるね……」


 父さんの電話の後ろから、母さんの声が聞こえてくる。


「とりあえず、説明をするから……あ、できればカメラがあったほうがいいんだけど……」


 そのまま通話するよりも画面で大丈夫なところをアピールした方が良さそう。

 それにこれからの説明にもカメラがあったほうがしやすい。


「飛鳥くん、よければこっちで画面映そうか? こっちのほうが大きく見えるし」


「えっ? いいんですか?」


「もちろん」


 スマホだと限界があるからバトンタッチして、真田さんに父さんにかけてもらって、プロジェクターの画面に出してもらった。


『映ってるかな?』


 プロジェクターの画面に、父さんの顔が映った。


「うん、見えてるよ。父さん、久しぶり」


 父さんの見た目は、どこの映画俳優かと思うくらい整った顔立ちだ。髪は金色、目は青で雛香と同じ。


『やあ、飛鳥。元気そうだね。雛香は……元気すぎるかな?』


「パパ! 雛香は元気だよ!」


 元気すぎると元気は違うんだよなぁ。


「えっと、それで母さんは……」


『ああ、深月みつきなら今……』


『飛鳥ちゃん!? 大丈夫なの!?』


「わっ……母さん」


 突然、父さんの顔を押しのけて、母さんが全画面に映った。びっくりしたぁ。


「母さん、落ち着いて、色々と誤解があっただけだから」


『でもでも、雛香から飛鳥ちゃんが誘拐されたって! 身体は無事? 後ろで銃を突きつけられてるとかじゃない?』


「母さん変なドラマの見すぎじゃない……?」


 雛香と一緒で説明するのが大変だった。


『なるほど、そういうことだったんだね』


 とりあえず、ざっくりと説明を終えると、父さんは納得したように頷いた。


「申し訳ない、こちらがもっと丁寧に事を進めるべきでした」


『いえいえ、こちらこそ、ちゃんと息子たちに連絡を取っておくべきでした』


 ということで、無事に誤解は解けた。


『もう! 雛香ったら、誘拐だなんて大げさなんだから!』


「ママだって、すぐに救出するのよ! なんて言ってたじゃない!」


 うちの女性陣たちもすっかり落ち着いた様子。

 とりあえず、これで一段落……ってわけじゃないんだよね。

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