第19話

「勇者!? 勇者ってあの勇者ですか!?」


「どの勇者かはわからないけど、ルーウェンに勇者として召喚されたっていう感じだね。なんか、この歳になって勇者ってちょっと恥ずかしいけれど」


 男性、真田さんは苦笑いを浮かべているが、僕はそれどころではない。

 前世で僕が生きていた世界、ルーウェン。そこで勇者をしていた!?

 勇者ってあっちで誰かが神様に選ばれたとかじゃなくて、この世界から召喚されてたの!? そんなの聞いてないんだけど!?

 そんな勇者と同じ世界に転生してくるとかどんな確率!?


 って、まさか、僕が元魔族だってことがバレた? ひょっとしてこれやばい状態?

 ルーウェンのことを知らない振りをすればよかったか?

 いや、異世界にいたということはばれても、魔王側だったとは……


「察するに、君は魔王側のダンジョンマスターじゃないかな?」


 普通にバレてるし。しかも役職まで。


「どうして知っているのか? って顔だね」


 どうやら表情に出ていたみたい。


「最近流行りのダンジョンについて調べたら、なんとなく作りの癖が似てるなぁとは思ったんだよ。それで、色々と調べてみたら君にたどり着いたわけだ」


 色々と調べたらって……かなり隠蔽しているから、そんなに簡単には見つからないはずだったんだけどなぁ。

 まさか癖でバレるなんて……前世のことを知ってる人がいるなんて思ってなかったからその辺りケアしてなかったよ。


 どうしよう……元魔族だってバレてる……

 しかも、相手は元とはいえ勇者。魔族なんて存在は切って捨てられてもおかしくない。

 せっかく、ダンジョン公開がいい感じになってきたのに……僕の人生はコレで終わり……


「君には、一度お礼を言いたいと思っていたんだよ」


 ……?


「……お礼?」


 これはあれか? お礼参り的なお礼か?


「その様子だと覚えていないみたいだね、実は僕は君に……いや、前世の君に助けられたことがあるんだよ」


「助けた? 勇者を?」


 そんな記憶はない。

 というか、そんなことしてたら、流石にもっと問題になってるはずなんだけど……

 いや、処刑になってるから結局問題にはなってるか。


「当時の僕は、まだ召喚されて間もない頃で勇者としての力もまだまだだったからね。一般人に毛が生えたくらいだったよ」


 強くなる前の勇者? そんなこと言われても……


「それに、君はダンジョンに迷い込んだ一般人と勘違いしていたみたいだったからね。覚えていないのもしょうがないさ」


 ダンジョンに迷い込んだ一般人を助けた……? いや、確かに……なんか引っかかるような……


「僕は覚えているよ、迷いの森で、仲間とはぐれた僕を仲間と引き合わせてくれたことを」


 ……思い出してきた。


「その時、君はこんなことを言っていたな」


 確か、あの時は……


「……迷いの森は現在メンテナンス中」


「……! 思い出したのかい?」


 思い出した。確かに、僕は迷いの森で迷子になっている男性を見つけて、出口まで案内したことがある。


「そう、あの時は、前任者から引き継いですぐの頃で……色んなダンジョンを見て回ってて……迷いの森もその一つだった」


 ぱっと見て、問題があるのがわかった。

 その問題とは……


「特定のルートをたどると、無限ループで出られなくなってた」


 そう、迷いの森は正解の道を進んでいかないとボスまでたどり着かないダンジョンなんだけど、何度かルートを失敗すると進むことも戻ることもできない無限ループに陥ってしまうという問題があった。

 今考えても、あれは酷い問題だったと思う。

 侵略を防ぐためのダンジョンならまだしも、レベル上げの餌のためのダンジョンなのに、そんなことが噂になっては誰も入らなくなってしまう。

 幸いにも、かなり確率が低い問題だったから、噂にはなっていなかったみたいで、気がついてすぐに直そうと向かった時にちょうど迷子になっている男性を見つけたんだったね。

 相手は人間だったけど一般人だと思ってたから特に気にしていなかった。まさか、それが勇者だったとは……


「後日、再び迷いの森に入った時は、そんなループに入ることはなくなっていたよ」


 あの時は、改修をいれて、きちんとその問題は修正したんだった。

 一度でも引き返したら、入り口にワープするようにしたんだったかな?


「というわけで、あの時のお礼をきちんと言いたかったわけだよ」


 どうもありがとうと、お礼を言われてしまった。


「……どういたしまして」


 まさか、前世の行いを今生でお礼を言われるなんて思ってもみなかった。しかも、相手は元勇者だし。


「ちゃんと言えてよかった。本当は、前世での君に会えたらお礼を言いたかったんだが、どうやら僕が魔王を倒した時には既に亡くなってしまっていたみたいだから、言えなくて心残りだったんだよ」


 まぁ、勇者が魔王城にたどり着いた時には既に処刑されてたからね。

 もしも、処刑がもっと先だったらもうちょっとなにか変わってたのかもね。


「ちなみに、僕は元魔族になるわけなんですが……勇者的にはそのあたりは大丈夫なんですか?」


「もちろん、というか、今は君だって普通の人間だろう? そもそも、敵対する魔王は既に倒したしね」


 まぁ、普通の人間かどうかはちょっと別だけど、魔王は討伐されてるし、そもそもこの世界に魔王はいないから関係ないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る