第30話

〈どうも、怒涛の勢いで青春を謳歌せし者、ファブリーズ・ゼロキャノンです〉


 コメント

 :待ってました!

 :待ってました!!

 :待ってました?

 :うおぉおおおお!これが噂のキモオタボイス!!

 :この声待ってました!やっとリアタイで聞けた!!

 :初見です。なんかボイチェン切れて可愛い声バレしそうな配信者さんだなぁと思ったので古参アピしてフォローしときます

 :↑もうフォロワー数93万人だし、声バレの流れも終わってるのよwww

 :とうとうファブゼロにも「初見です詐欺」する輩が出没するようになったか



 修学旅行という学生の一大イベントの一つを無事に終えて家に帰ってきたボクは、五日ぶりに機材の前、自室のゲーミングチェアに座って配信をしている。

 どうして二泊三日の修学旅行から帰って来て、一日空けてから配信をしたのかと言えば、それはちょっとした身バレ対策。帰ってきたその日の内や次の日にすぐ配信をしちゃうと、どうしてもネットで活動している人は中を絞られやすく、特定されやすくなってしまう。

 だからボクも、ファブゼロの中の人がボクだとバレないように、こういったちょっとした対策などを割とこまめに注意しておこなっている。



〈まさかこのボイチェンした声が、ここまで需要が伸びるなんて。あの頃のフォロワー三桁代だったボクに教えてあげたいよ〉


 :たしかになwww

 :まさか俺ら古参組もファブゼロがここまで飛ぶ鳥を落とす勢いで有名になるなんて思わなかった

 :なんならワイらはずっとあのまま身内同士でだべる感覚でずっとワイワイと小さな盛り上がりが続くのかと思ってた。何事にも永遠ってないんだな(遠い目)

 :永遠なんて稀よな



 ボクの紡ぐ言葉が、マイクの機能によって別人のような声でまた紡がれていく。

 その言葉にコメントのみんなが反応して、時には一喜一憂したりなんかもして、多種多様な盛り上がりを見せてくれる。


 今回もそんな盛り上がり続けるコメントを眺めて、ちょくちょく言葉を紡ぎながら、ボクは修学旅行での、あの時見た光景のその後を思い出す。


 立村たちむら すももさん。

 いつも安島あじま 花梨かりんさんと一緒にいて、口数は限りなく少ないし毎回喋ることを億劫に感じてるように思える可愛い同級生の女の子。

 そんな立村さんが、修学旅行二日目の夜、安島さんに告白をしていた。


 今でも鮮明に思い出すことの出来る鮮烈な記憶。


 あんなに口数の少ない立村さんの、あんな饒舌に話しているところ。

 初めて見た。



『私は、あなたのことが本当に好き。真剣に好き。真面目に大好き。だから、いい加減、私のことをカリンももっと意識してほしい』



 想いを全て吐き出すように紡がれたその言葉たちに、それを直接ぶつけられた安島さんは何を思ったんだろうか。どう感じたんだろうか。


 ボクはそれが気になってしょうがなかった。


 だって、それを盗み聞きしてしまったボクは身体が燃え上がるほどの熱に見舞われた。

 どうしてか自分が言われたことのように、強くときめいてしまった。ドキドキしてしまった。


 その場から急いで逃げ出しても、体内の熱は帯びたままなかなか冷めてはくれなくて。


 意識してしまうのだ。

 汐凪さんを。


 彼女がボクを呼び出して“お願い”したいことって、もしかして立村さんが放った言葉と同等のことだったりして、とか。色々考えてしまったのだ。

 もうそうやって考え始めたら、その妄想はとどまることを知らなくて。

 ドキドキと、“奇妙な淡い期待”なんてものを抱いた馬鹿な自分がそこにいた。


 しばらくロビーの隅っこで汐凪さんを待ってたら、汐凪さんは現れた。


 お願いってなんだろう。


 この時のボクの頭の中は先ほどの立村さんの告白と、これから言われるであろう汐凪さんのお願いに対する妄想が半分半分で埋まっていた。

 ドキドキして、何故だか気恥ずかしくて、ボクは汐凪さんの顔を直視することが出来なかった。


「兎月?顔、赤いけど大丈夫??」

「だ、だいじょぶ、です」

「そ、そう?……じゃあ、えっと、お願い、なんだけど」

「は、はい」

「……あたしのこと、苗字じゃなくて、名前で呼んでほしい!」


 汐凪さんは顔を真っ赤っかにして、そう言ってきた。

 あまりにも汐凪さんが顔を赤くして恥ずかしがるし、ここまで“お願い”を引っ張るから、ボクはもっと、こう、もっと大きな?お願いをされると思ってたんだけど……。


「えっ?……あ、そ、それだけ?」

「え、う、うん」


 なーんだ。そんなことか。

 あ、あはは。

 名前で呼んでほしいだなんて、汐凪さんも可愛いなぁ。

 そんなの、簡単なことだよ。

 あ、あはは。


 でもあれ?

 どうしてだろう。

 名前を呼ぶだけなのに。予想してたお願いよりも全然規模は小さいはずなのに。


 顔が、熱い///


「ぁ、………有理紗ありさ!………ちゃん!!」


 大きな声で、勇気を持って、頑張ってそう呼んでみる。

 彼女の顔は見れなくて。今、ボクから名前で呼ばれたあなたはどんな表情をしているんだろう。


 恐る恐る、彼女の顔を見る。


「……ぁ」


 そこには、さっきよりも更に顔を赤くして、嬉しそうに口をもにょもにょさせる、汐凪さん改め、有理紗ちゃんがいた。




〈ちょっとさ、君らの知識を借りたいんだけど、相談してもいいかな?〉


 :おうおう!どしたん?

 :なんでも聞いてください!

 :古のネット知識なら任せろ


〈いや、あの、友人関係での悩み事?なんだけど〉


 :は?

 :んん?

 :なんて?

 :ワイらに、友人関係の知識を求めていらっしゃる?

 :キレそう

 :まぁ、話だけ聞いてあげる


〈お、ありがとう。あのさ、これはボクの友達に相談された、そのまた友達の話なんだけどね?〉


 :はいはいテンプレね

 :秘技・友達の友達ね


〈なんか、前からその友達には二人の友人がいてね。その二人の友人はいつも一緒にいるほど仲がよかったらしいの。けれど、ある日を境にその子たち、微妙に距離ができた感じになっちゃって。正直、見てて辛い。ってボクの友達が言ってるの。みんなこれ、どう思う?〉


 :……うん、俺らにはさっぱり分からない

 :ワイらで解決できる範疇をしっかり越えてるね、それ

 :やっぱ俺、友達いたことないから話についていけなかったわ

 :↑元気だせ兄弟。俺もだ


〈あー、やっぱりそうだよね。難しいよねぇ〉



 藁にもすがる思いで、ボクの大切な友達である安島さんと立村さんのことを身バレしない程度に視聴者さんにも相談したけれど、そう上手く良い提案は出てこなかった。


 すぐに話題を変えてまた雑談に戻るボクとコメントたち。


 すると、ピロンとボクのスマホに通知が来る。

 画面を見れば、相手は旭川あさひかわ 蜜柑みかんさん。『山茶花サンカ』という名で活動をしている『はぴぷれ』の看板Vtuberだ。


 内容は、


『社長からもう話は聞いた?』


 社長から?社長って、『はぴぷれ』の?

 ボクはトークアプリを開く。するとタイミングよく、久我くが 蓮治れんじさんという『はぴぷれ』の代表取締役兼社長の方からメッセージが届いた。



『ファブゼロくんが希望していたイラストレーターの方に交渉してみたが、断られてしまった。本当にすまない。聞けば、事情があるらしくてね。一度会えないだろうか』



〇  〇  〇

こんな感じで第一章は完結です。

色々と問題が出てきたところで締めさせていただきました。

第二章では物語の都合上、配信回が多くなる予定です。(今のところは)

第二章でも可愛い女の子たちの“てぇてぇ”と“楽しそうな日常”をお届けできるよう頑張ります。(なるべく早く更新できるように執筆がんばります)

それでは、また。

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