第28話
修学旅行。
それは、ボクにとっては苦でしかないイベントのはずだった。
班で行動するということは、つまり必ず『妥協』が生まれる。しかしその妥協というのは必ずしも全員が平等にするものとは限らない。
学生生活において、妥協とはカーストによって決まる。カースト上位の人はわざわざ妥協なんてせずとも、カースト下位の人が妥協すれば班行動というものは丸く収まって、いざこざや少しのわだかまり、意見の食い違いなどもあっという間に解決してしまう。
少なくともボクは、そんなイメージを抱いている。
だからボクにとって修学旅行なんていう班行動における社会学習を主に置いたイベントは苦手だった。
………苦手なはずだった。
二泊三日の修学旅行、早くも一日目の夜を迎えていた。
一日目はクラスでの団体行動で、前までのボクなら間違いなく列の最後方から孤立して集団についていく形になっていたはず。
けれど今日は違った。
賑わうクラスメイトたちの間をスススと通り抜けて最後方に移動しようとしたら、クラスカースト最上位の安島さんに腕をつかまれ、あまつさえ引っ張られて立村さんや汐凪さんたちと一緒に固まって移動することになった。
最初は慣れない場所を歩いていることでの気後れも相まって、汐凪さんたちが話題を振ってきてもオドオドするばかりだったけれど、汐凪さんが都度、手を握ってくれたり頭をよしよししてくれたりして。そんな普段よりも多めな気がするスキンシップのおかげで途中からボクも楽しく会話したり、観光スポットで盛り上がりながら一日目のクラス行動を楽しむことが出来た。
今もホテルの夕食を食べ終えて、入浴時間になるのを待っている間に脳内ではカメラマンさんに撮ってもらった四人の記念写真がどんな風に撮れているのか、はやく現像したくてワクワクしてたり。友達と呼べる関係の人たちとワイワイキャッキャしたことにどこか他人事みたいに感動していたり。
「ねねね!前にみんなで買い物行ったときに買った命令が書かれたトランプ、やろーよ!」
安島さんがホテルの四人部屋でボクたちに提案してくる。
部屋にある時計を見れば、ボクたちのクラスの入浴時間まであと五分。
「……ばかカリン。それ、あと五分じゃ終わらないし楽しめない」
「だね!スモモの言う通りだよ。お風呂から上がって来てから、そういうのはゆっくり楽しもーよ」
立村さんがゲシゲシと安島さんの足をじゃれあい程度に何度も蹴って、汐凪さんはそう言いながら何故かボクのことを意味深に見てくる。
その意図が分からなかったけれど、とりあえずボクもお風呂を上がってから遊ぶことには賛成だったから頷いといた。
入浴時間がやってきて、ボクらはホテルのちょうど隣に建てられたホテル自慢の銭湯に足を運んだ。
脱衣所で同性のクラスメイトたちがテキパキと、友達と喋りながらなんでもないことのように服を脱いでいくなか。
ボクは何故かボクの真隣を陣取る汐凪さんが気になって、なかなか服を脱げないでいた。
なんだかドキドキするのだ。
別に他の人に自分の裸を見られたところで少しの羞恥と、だらしない贅肉だらけの身体を見せてしまって申し訳ないとしか思わないのに。
汐凪さんには、こんな無駄肉ばかりの身体を見られたくない。どうしてか分からないけれど、こんな身長の低いボクに不釣り合いなほどの、邪魔でしかない大きさの胸とか、特に贅肉の塊みたいなものだから汐凪さんには絶対に見られたくない。
だから、なかなか脱げない。
こんなに汐凪さんのことを意識してしまうのはどうしてなんだろう。
きっと汐凪さんもなかなか服を脱ぎ始めないから、同じような気持ちをボクに抱いてそうだけど……。
あ、脱いだ。
汐凪さんがボクがいる方とは逆の方に顔を背けながら、制服のスカートを下した。
あっ、……ふ、ふとっ、………ふともも///
おかしい。絶対に今のボクはどこかおかしい。
一番大切な友達の。それも同性の生ふとももを目にしただけで、動悸が激しい。止まらない。顔も熱い。ど、どうしよう。今のボクの顔、誰にも見られたくない。
シャツでギリギリ隠れた下着と、もちもちそうで色白な肌のふとももとの境界線に、どうしても視線が吸い寄せられてしまう。
最低だ。どうして。恥ずかしい。
ふとその禁断区域から目を逸らすために視線を上げれば、顔を背けた汐凪さんの耳が真っ赤っかなことに気づいた。
「(汐凪さんも、恥ずかしいんだ……)」
ボクも意を決して、シャツのボタンを上から一つずつ外し始める。
あー、恥ずかしい!
ちょうどおへそのすぐ上あたりまでボタンを外したとき、安島さんがボクらを呼ぶ声が聞こえた。
「二人ともー!はやく入らないと次のクラスの時間来ちゃうよ!」
「………カリン、も、もちもち!」
「ちょ、スモモ!つつかないで!」
「……もちもち。……もちもち♡」
……………つ、つついてる!
立村さんが安島さんのをつんつんしてる。
あれ?でも少し見てはいけないものを見てしまった感はあるけれど、先ほどまで汐凪さんに感じていたほどの恥ずかしさは感じられない。
どうしてだろう?と考えていたら。
「つ、つんつん………っ///」
「っ!??」
汐凪さんが、シャツのボタンから解放されて空気を浴びていたボクの残り布一枚で抑えられている胸を、、、つついてきた。
「ふ、ふわふわ………だ……」
「あ……えぅ///……ぁ……あうぅ///」
ボクはその場に居た堪れなくなって、まだ着ている服を急いで脱いで、転ばない程度に足早に浴場へと逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます