第19話

「んじゃ、また学校でー!」

「………ばいばい」

「カリン、あんまスモモに迷惑かけちゃダメだからねー!」

「ま、また学校で!!」


 四人四色のお別れの挨拶。

 それをもって今日のショッピングはお開きになった。


 家が隣同士なため帰る時も一緒らしい安島さんと立村さんは、どこか距離が近い、と言うよりも立村さんがやけに安島さんに対して距離を詰めているような気がしたけれど、ボクはそれについてあまり触れないでおくことにした。

 もしかしたら、あの距離感が汐凪さんにとって『てぇてぇ』なのかも知れない。


 そしてボクもボクとて、隣で安島さんたちに未だ手を振り続けている汐凪さんに「今日は楽しかった」と伝えようとしたそのタイミングで。


「あの、さ!もう、こんな時間じゃん?」


 汐凪さんに言われスマホで時間を確認すると、現在の時刻は18:56。


「もう結構暗いじゃん?」


 確かに言われてみれば、もう空はほとんど暗かった。


「い、家まで送ってっても、いいかな?」


 明らかに緊張を滲ませながらそう聞いてくる汐凪さん。

 ボクはいつものコミュ障を発揮する―――ことは無かった。それよりもキョトンとしてしまって、不思議と言うか、疑問の方が驚きよりも大きかったのだ。


 だって、どうして彼女は今、ボクに許可を求めているのだろう。

 この場合、むしろボクがお願いする立場じゃない?それとも優しくて気配り上手な彼女のことだから、ボクが迷惑に思うとか、そんなところまで考えているのかもしれない。


 だとしたら彼女は、どこまでいっても優しいなと、ボクは思う。


 だからボクは精一杯にはにかんだ笑顔で答えた。


「えへへ///………なんかエスコートされるみたいで照れますね//……よろしくお願いします、汐凪さん!」



 ◇ ◇ ◇


 そして家まで送ってもらったのは良いものの……。


「あら~、まさか兎月がこーんな美人な子と友達で、しかも家に連れてくるなんて!あなた、名前はなんて言うの?」

「こんばんわ、兎月のお姉さん。あたしは汐凪しおなぎ 有理沙ありさっていいます。妹さんにはいつもお世話になってます」

「あらあら!お姉さんだなんて!私は兎月の母ですよ~♪有理沙ちゃんね!ささっ、家に上がって上がって?」

「良いんですか?それじゃあお邪魔します!」


 え、えぇ……?


 なんか秒の会話で汐凪さんが家に上がることになってるんだけど。これがコミュ強?こんな領域、ボクが何をしたって到達できないじゃんか。もはや生物としての根本的なスペックが違うと見た。


 ママもパパもなんか凄いノリノリでニマニマしてる。


 ボクが友達を連れてきたことが、よっぽど嬉しいみたいだった。


「汐凪さん。私は兎月のパパだ。今日は娘と一緒に遊んでくれたんだろう?どうだい、今日は夕食を食べてってくれないか?学校での兎月の様子も聞きたいんだ」

「ほんとですか!?それじゃあ、いただいちゃいます!」


 そして秒で一緒に我が家で夕食を食べることも決定した。

 ここまで来れば、もはやコミュ力とはこのことかと、汐凪さんを尊敬する。


 まず言葉の最初に「あ、」って言わない時点で凄い。

 ボクなんてしょっちゅう「あ、」「えと、」「うぅ~」って言ってから喋りだすのに。


「おねーちゃん!おかえりー!!」


 ドタドタと足音を立てながら、二階から降りてくるのは妹の紅葉。

 階段を降りたあとはボク目掛けて一直線に飛び込んでくる。


「ぐふっ!……た、ただいま紅葉」

「あはは!おねーちゃん変な声ー!」

「そういうこと言うのはお姉ちゃんだけにしないとダメだからね紅葉」

「いひひ!はーい!!」


 紅葉が満面の笑みでボクの胸に顔をグリグリ。


「はわぁ~!え、これは確かに可愛すぎるわ。兎月が配信でべた惚れしてたのも頷ける可愛さ!!」


 汐凪さんはなんか一人で悶えている。


「うゆ?おねーちゃん、この人だれ?」

「あ、この人はボクの友達の汐凪 有理沙さんだよ。汐凪さん、このちみっこいのはボクの妹の紅葉くれは。お転婆で落ち着きのない子だけど、ボクの自慢の妹なんだ。仲良くしてほしい」

「うん、知ってるよ。配信で言ってたもんね」

「あ、そっか。見てくれてるんだっけ?」

「うん。いつも見てるよ。それにしても、ほんっとーに可愛いね。紅葉ちゃん」


 汐凪さんはボクに抱き着いたままじぃーっと彼女を見つめる紅葉へと視線の高さを合わせるために屈み、そして紅葉に微笑む。

 そんな彼女に対して紅葉は、じぃーっと汐凪さんを見つめたまま言った。


「あなたは、おねーちゃんのなに?」

「………えーっと」


 これに対して、汐凪さんはなんと答えればいいのか分からないといった様子でボクへと困ったような笑みを向ける。


「紅葉、さっき言ったでしょ?汐凪さんはボクの大事な友達なの」

「大事?大事って、どれくらい大事なの??」


 ボクには妹がどうしてそんなことを聞いてくるのか理解できなかった。

 けれど次の言葉ですべてが納得できた。


「あなたは、クレハからおねーちゃんを盗る人?おねーちゃんは、誰にも渡さないもん!」


 頬をぷくーっと小リスのように膨らませて、紅葉はそんな、ボクにとって嬉しくなるようなことを言ってくれた。


 汐凪さんとボクは途端に目を合わせて笑いあう。


「紅葉ちゃん、あたしはお姉ちゃんのことを………」


 汐凪さんが微笑みながら紅葉の頭を撫で、誤解を解こうとする。

 しかし、途中で不自然に彼女の言葉は途切れた。


「汐凪さん?」

「………あ、あれ?…………え、これ、うそ」


 途端に顔を赤くして、かと思えば蒼くなったりもして。


 汐凪さんはなにやら自分自身に戸惑っているようだった。



 ◇ ◇ ◇



















(あたしは、と思ってる??)



〇  〇  〇

次回は『まおりん』とのデートでっす!

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