第2話

 もう無理。まぢでやってらんない。

 明日から学校行きたくない。引きこもってアニメ見てたい。


 今日のボクは、限りなくメンタルがヘラっていた。

 学校行きたくないとか、引きこもりたいとか、実は毎日必ず一度は言ってるんだけど。今日のは本当に無理。耐えられない。


 それは学校での出来事。


「追川さんってすっごく可愛いよね!あたし前々から一回話してみたいって思ってたんだけどさー。追川さんってなんか人を寄せ付けないオーラがすごいじゃん?だから、逆にこの修学旅行でホテルの班が同じになれたのはデカいわー」


 スクールカーストというものをご存じだろうか。

 学校内の、またはクラスの序列みたいなもので、主にそれはコミュ力や容姿などで決まってしまう。

 つまり、だ。

 コミュ障陰キャで容姿もブサイクなボクは、スクールカースト最底辺と言っても過言ではない。そんなボクに、ものすっごく近い距離で喋り倒してくるのはうちのクラスのカーストトップの女王様。プラスアルファでその取り巻きたちだ。


 みーんなボクよりも容姿が優れていて、コミュ力もある。

 そんな彼女たちと、なんとボクは来月に迫る修学旅行のホテルで泊まる部屋の班が一緒になってしまったのだ。

 あぁ、神はいないのか。


 だがまぁ、まだ一緒になっただけならば問題はない。

 こんなボクのことなど放っておいて楽しんでもらえばいい。どうせ向こうもボクと会話する気などあるはずがない。

 そう思っていたのに………。


 なんだこれは。

 ボクがめっちゃ可愛い?すんごい嫌味をいきなり言われる破目に。しかも人を寄せ付けないオーラとか、、、それ陰キャって遠回しに言おうとしてるけど全然直接的になってることに気づいてくれてますかねぇ。


「い、いやぁ……。ボクなんかよりもみんなの方が数億倍は可愛いよ」

「「「……………」」」

「み、みなさん?」

「え、やっば」「……声、はじめてきいた」「めっちゃ可愛い!」


 もうやだ死にたい。

 ボクにとってこの声は一番のコンプレックスだ。それこそブサイクな容姿よりも圧倒的に自分の声が嫌いだ。

 小学六年生の頃に言われた言葉は高校生になった今でも根強く心の奥底でボクを苦しめている。


 だから可愛いわけないのに。

 そんなコンプレックスにまで嫌味を言ってくる彼女たち。そしてそれに言い返せないでただ黙って俯いてしまうボク。

 はぁ、引きこもりたい。


 そのあとはボクが黙っていたことも相まって彼女たちがボクに話かけてくることは無かった。


 放課後、家に帰ってきた今。


 やることはもう決まっている。



 ……………………


 ………………


 …………



〈世の中ままならないことだらけで草〉


 コメント

 :わこつ

 :わこつー

 :きゅうにどしたww

 :どしたん?話聞こか?


〈いや今日も引きニーのおまいらとは違ってしっかり外に出て務めを果たしてきたんだけどさぁ〉


 :引きニー言うな

 :ワイはニートちゃうで

 :ファブゼロはなんだかんだ言いつつもさぼらず平日出勤してるあたり、俺とは違うんだよなぁ

 :おつかれー


〈うむ、おつかれ。それでさぁ、今日もつつがなく孤高を謳歌しながら働いてたらさ、なんと今まで話したことない同僚の奴らに声かけられたんよ〉


 :孤高って言えばかっこいいとか思ってそう

 :つまりぼっちな


〈ぼっち言うなし。それでさ、その同僚の奴らにボクの見た目がかっこいい、とか声がイケボだって褒められたんだよねぇ〉←事実曲解からの視聴者にだけは自慢げ


 :は?

 :ファブゼロって見た目かっこいいの?

 :こえが、いけぼ?

 :↑イケボってひらがなだと汚いななんか


〈うんまーね。実はボク、かっこいいらしーよ?〉


 :てか同僚ってもしかして女性?

 :うっざ

 :たしかに男が男にかっこいいって言わない気が……

 :それなりに仲が良ければ言うんじゃね?知らんけど


〈あー、うん。じょ、女性かな?〉


 :ん?

 :(#^ω^)ピキピキ

 :は?

 :ふざけんな


〈わーわー!冗談だよ冗談!!……そんなことより、今日は金曜日だしいつもみたいに早く乾杯しよーよ〉



 いつものごとく自身が女であることすらバレないように話を捻じ曲げて今日あったことを大まかに話す。

 しかしボクも迂闊だった。


 ここに集まるものたちは大抵が引きこもりニートに決まってる。

 そんな彼らに女性の話は地雷以外のなにものでもない。


 ボクは慌てて方向転換するために最早恒例行事となった『週末のキモオタとカンパイ』という配信内容の話を持ち出す。

 この行事は、毎週金曜日にこの配信でボクと視聴者が乾杯したあとまったりとアニメを同時視聴するというものだ。


 :なんだ冗談か

 :ならいいか

 :ちょいまち。ビールとってくる

 :ワイも


〈ボクもジュースとってこよ〉


 ガタン!!!!!


 :!?

 :なんだ?

 :耳がないなった

 :なにか落としたか?


〈ご――ご―ん。マイ―落と――〉


 :なんて?

 :ちょ、ノイズが

 :もしかしてマイク壊れた?



 ボクはマイクをミュートにしてから席を立って飲み物を取りに行く。今日はオレンジジュースの気分だ。


 同時視聴するアニメはメ〇リックルージュ。

 とても楽しみだ。

 この時のボクの頭には、もうすっかり学校での憂鬱な出来事など消えていた。ほんとに配信とボクの固定ファンたちはボクにとっての癒しであると実感する。



 その癒しがある意味ぶっこわれるなんて、まだ思ってもいない。

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