第10話 あの日のこと
『まあ、俺が卒業するまでに付き合うかは考えてみてよ。』
『好き・・・か。』
高校一年の時、好きだと言ってくれるクラスメイトがいた。ユエの気持ちはまだ彼には傾いていなかったけど仲良くなれるなら、そういう思いでいたが一向に進まない関係に苛立ちを覚えた彼はひどい言葉で
丁度文化祭の頃で同じクラスというのもあり緊張で何も楽しめなかった。というかあまり記憶がない。今年は彼の顔は見ていないけど、充実した文化祭でよかったと思う。
あれから色恋は少し苦手意識があった。周りの子達が恋をしているのは楽しそうに見えるし応援もしたくなる。けどいざ自分となるとどこか考えないようにしていた。
二年の仲の良いクラスメイトたちから
霧河のことが好きか?と考えると難しい。霧河は優しい人で会うたびに挨拶もしてくれるし、なんだかんだと良き先輩、規範となる素敵な人だ。
それは虎二も狼もよく知っている。だから放課後の喫茶店に付き合うくらいは普通だったけど、いざ恋人となると想像できない。
はあ、と溜息をついて両手を放り出すと机の上で携帯電話が鳴った。体を起こして画面を見る。
『はい、狼君?』
『うん、今大丈夫?』
『大丈夫だよ。どうしたの?』
狼は今日勝手にデートに付き添ったことを詫びた。
『いいよ、もう済んだことだし。』
『ユエちゃん・・・先輩のことどうするの?』
『・・・わかんない。だってまだよく知らないし・・・。』
『そっか。・・・ユエちゃん、あんまり無理しなくていいよ?そういうの苦手ならさ。』
『え?』
『・・・あのさ、俺知ってるんだ。一年の時の事。中学のときに交流があった奴がいてさ・・・そいつがさ、文化祭の後、教えてくれた。』
『・・・そうなんだ。』
ユエが黙り込むと狼は優しく言う。
『ごめんな。一年の時に傍にいられれば、そんなことさせなかったのに。虎だって同じだと思う。ほんと、ぶっ飛ばしてやりたいくらいだよ。』
『フフ、大丈夫だよ、もう平気だし。』
『でもまじで俺怒ってたんだよ、話聞いた時。悔しかったし。』
『悔しい?』
『うん、なんでユエちゃんが傷つけられなくちゃいけないんだって。俺や虎二にとっては大事で宝物みたいな女の子なのに。』
くすぐったい言葉にユエの頬が熱くなる。
『だからさ・・・ちゃんとゆっくり考えたらいいんだよ?俺たちがついてるし。もう絶対泣かせないし、傷つけさせないから。』
『うん。』
『わかったらいい。ごめん、いきなり電話して。じゃあまた明日。』
電話が切れてユエは顔がゆるむ。なんだか嬉しくて微笑みが零れた。
狼君・・・。なんであんなに優しいんだろう?
虎二と狼は中学の時に本当に仲良くなった。小学校から一緒ではあったけど、一気に距離が縮まったのは中学の校外マラソン。木枯らしの吹く中で足をくじいて歩いていたら逆方向から駆けてきたのが虎二。負ぶさって学校に戻って、保健室で手当てしてくれたのが狼。二人とも優しい男の子だった。
意地悪なことを言うことがあるけど、絶対に傷つけないしいつでも優しかった。
高校二年で同じクラスになって、中学生の時よりももっと格好良く、もっと優しくなっていて、他の女の子たちが二人に憧れるのはよくわかった。
でも虎ちゃんは・・・。
ちくんと胸が痛むのは一緒にいてくれる虎二が他の女の子に取られた気がしたからだろうか?
ユエはベットに突っ伏すとそのまま目を閉じた。
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