第2話 どっちが?
新しいクラスに
夏服が始まる頃、仲の良い女子の一人、ミツキが弁当を持ってやって来た。
『お昼食べよ?』
『うん。』
傍にいた女子たちも、『混ぜてー。』と机を寄せると数人でのランチになった。
サンドイッチを頬張るミヤコがユエに視線を向ける。
『ねえ、ユエちゃん、ずっと聞きたかったんだけど。』
『なに?』
『
『え?』
ユエが箸を止めると、その場にいた女子たちが振り子のように頷いてユエを見た。
『あたしも気になってた。』『あたしも。』
口々にそう言われて、ユエは苦笑すると弁当箱の卵焼きを口に運ぶ。
どっちが彼氏って。
虎二と狼は仲の良い幼馴染で彼氏彼女の関係じゃない。
多分それを言っても彼女たちの興味は尽きないだろう。
『で、どっち?』
『ああ、あのね。同じ中学校だっただけなんだよ。』
彼女たちにはやっぱり違う答えが必要だったようだ。
『えー、内緒なの?』『結構気になってる子多いんだよ?』
『そうそう。あの二人めっちゃモテルって知ってる?』
ミツキが笑って言うと、ユエは口の中の物をごくりと飲み込んだ。
『そうなんだ。』
『うん、だって格好良いし、二人とも優しいからね。ユエちゃんがいるから皆、様子見てるけど、彼氏じゃないってわかったら激しくなりそうだよね。』
ミヤコが笑う。
他の女子たちもうんうんと頷き、虎二と狼の噂話をし始めた。
ユエはそれを聞きながら弁当を食べていたが、噂の中の二人はどこか王子様のように見られているようで、記憶の中にある中学生の二人を思い出すと、なんだか不思議な感じがした。
ランチが終了してユエの周りが静かになると、教室のドア近くにいた男子がこちらを向いた。
『
手招きされてドアの傍に駆け寄る。
『どうしたの?』
クラスメイトの男子が隣で赤い顔をしている男子を紹介する。
初めて見る顔に軽く会釈するも彼は話しにくいのか、もじもじとしている。
ユエが苦笑すると、廊下の向こうからやってきた虎二が、男子二人を後ろから
『何してんの?俺も混ぜて。』
『うわ!中山君!』
虎二はにこっと笑う。
『ユエになんか用か?』
『いやー・・・ええと。』
虎二は二人をクルっと方向転換させると教室から離れて行った。
ユエは三人の背中を見ながら首を傾げる。
何だったんだろう?
『気にしないんだよ、ああいうのは虎に任せればいい。』と後ろから狼の声がした。
優しく狼の手がユエの頭をポンポンと叩く。
『ほら、教室戻ろうぜ。』
『うん。』
席に着くと目の前に狼が座った。
『なあ、ユエちゃん。今日は一緒に帰ろう。虎も一緒。』
『わかった。』
『うん、一緒に帰るのは初めてか?ならどっか行く?』
狼は頬杖をつく。
『うーん、そうだなあ。あ、新しいアイスクリーム屋さん出来たの知ってる?』
さっきランチの時に聞いた話を思い出す。
ちょっと興味があったから。
『いいじゃん、行こう。』
気のよい返事が返ってきて『やったあ!』とユエが笑うと、狼はなんだか嬉しそうにはにかむ。
『うん?』
『いや・・・、楽しみだなって思って。』
『うん。楽しみ。三人なら色んな味食べられるかなあ?』
アイスの話で盛り上がっていると虎二が帰ってきた。
『うん?何の話?』
『ああ、今日寄り道するアイスクリーム屋の話。お前も行くだろ?』
『おう。』
ユエは虎二のにっこり笑った顔を見て、あっと切り出した。
『虎ちゃん。さっきの人なんだったの?私に用事みたいだったけど。』
『ああ、気にすんな。教科書忘れたらしくて俺が貸しといた。』
『ええ?それなら貸すのに。』
虎二は苦笑すると手を伸ばして、ユエのおでこを指でつついた。
『いいんだよ。だから気にすんなって。なあ?』
隣にいる狼に同調を求めると狼も頷いた。
『うん、ユエちゃんが気にすることなんて何もないよ。』
うんと答えたものの、二人が目配せをしたので、ユエは首を傾げるしかなかった。
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