雨の御霊

雨月 史

KAC20241

美晴みはるには三分以内にやらなければならない事があった。


ってあと三分だ……。」


確かに大きな金魚鉢のようなガラス玉のからそう聞こえたからだ。


。。。


最近なんだかおかしい……。

私は晴れ女というやつだ。

私が行けば大抵の行事は晴れたし、

私はそれをネタの様にして生きて来た。


なのにその日も

朝から雨がシトシトと降っていた。


二月だというのに京都では平年気温を上回り暖かい日が続いて、早咲きの桜なんかが早とちりして咲き出した……なんて世間では騒いでいたところなのに、今日は冷たい木枯らしが首元に吹き付ける物だから、肩をすくめて歩いていたらポツリポツリと雨が降り始めた。


「あーあ、また雨やんか……。最近どこに行くにしても雨が降る。なんだか気持ちも晴

れへんわ……。」


なんて独り言を言ったところで雨が止むでもなく……先日冬物セールで買ったばかりの白いコートが濡れるのを不快に思いながら、傘の中で小さくなっていた。


「それにしても遅い……。なにやってんの柚彦ゆずひこのやつ。」


なんてまた独り言を言いながら傘をしぼしぼとたたんで、素早く伊勢丹の入り口から入ると、中のベンチが空いているのを見つけて雨を払いながら座ってLINEを開く。


柚→ごめん電車大雨で遅れてるみたい。

晴→知ってる。また動いたらLINEして。


「なんだかなー……はー。」

とか言ってため息をつきながら項垂れる。

まだ十時だというのに、

曇より雲ですっかり気持ちが塞ぎ込んだ。


とそこへ


「美晴!!ごめんなー。」


「柚?なんで電車動いたの?」


「あー。それより大変なんだ!!こっちへ来てみろよ。」


「何?」


半ば強引に私の手を引く柚……外は出てみるとやはり雨がポツリポツリと降っている。

なに?何がたいへんなのよ?

と戸惑っていると柚が空の上を差した。

それを見て私は唖然とした。


「何あれ?」


「わかんないよ。」


見ると空の上には大きな球状のガラス玉が浮いていた。そのガラス玉から水が滴り落ちている。ガラス玉には亀裂が入っているようだ。どうやら雨と思っていたのはガラス玉の亀裂から溢れている水?みたいだ。


「とにかく上まで行ってみよう。」


と訳も分からず京都伊勢丹の大階段を二人で必死に登る。(後で考えたらなんでエスカレーター使わなかったんだ?)ようやく屋上の『葉っぴーテラス』まで辿り着く。


京都タワーが目の前に見える。

遠くにはどこだかの和建築の塔や

寺院の屋根が見えている。

それを見て確信する。

やはり今日は天気が悪いんじゃないんだ。

私はやっぱり晴れ女や!!

あのガラス玉が水を滴らしているだけなんだ。


ってその方がよほど非現実的やん!!


よく見るとそのガラス玉の中に赤い物が動いている。


金魚? 


そしてこちらに話しかける。


「役目は果たしたよ。次は君が僕を助けてくれるかい?」


「なんの話?」


助けを求める様に横の柚彦を見るが、いつのまにか柚彦がいない……。なんなんあいつ!!

するとまた金魚が話しかけてくる。


「僕の事を思い出してほしい。ただそれだけだよ。どうやらこの水が保つのもあと三分が限界のようだ。それまでに君が僕の存在を思い出してくれたらそれで良いんだけどね。僕らの存在する意義は信心。量産型だけどこれでも神の使いなんでね。僕なりに力を発したからね。あとは君の信心で僕が雨御中主神あめのみなかぬし様の下へ昇天できればそれでいいんだ。」


「三分?なんの話?雨のなんて?」


「あーごめん喋りすぎた。あと二分ね。」


「えー!!ちょっと待ってよ。二分て……なんなん?金魚の知り合いなんていーひんし!!……いや……なんも言わんのかい?!」


「え?あっごめん時間が気になって…もうだめだね。君は僕を忘れてしまったみたいね。そりゃ僕は量産型のただの丸い、玉?水の入った…いや…何でもない。

あぶない危うく自分から自分を晒すとこらだった。でもどちらにしても、もう終わりだね僕は生まれ変わる事なくこれで……。」


え?丸い玉 水が? ……?

急激に頭の中にインスピレーションが走る。



「おい美晴!!」


「え?……柚?」


「3時間も待たせたのは悪かったけどさー、こんなところで寝たらあかんやん。」


「え?私寝ていた?金魚は?」


「金魚?何言ってんの?」


「あーいや…ごめん。」


なんや夢やったんや。それにしてもわけのわからん夢やったわ。なんなのあの金魚……。

でもあれは多分……。


「それより危なかったわ。山科でなー急に土砂降りが降ってきてな、すっかり電車停まってしまったんよ。せやけどな雨降らなかったら危なかったわ。山科の長いトンネルあるやん。あの出口にさ大きな落石があったらしいんよ。いつも通り走っていたら電車ひっくり返ったかもしれんわ。」


え!?


私は手持ちのカバンから化粧ポーチを取り出した。そしてポーチのファスナーについた心当たりのある丸い玉の中に水の入ったもりを取り出した。


「あーー!!」


「うわーびっくりしたわ。なんやねん?」


「柚、前に滲鴨神社しみかみじんじゃに行った時に買ったお守り持ってる?」


「え?あー持ってるよ。」

そう言っていつものキーケースをだした。


「うわーまじかー何か水抜けてる。」


そうこのお守りは小さな玉の中に水が入っていてその水の中には小さな赤い金魚型の護符が入っている。


滲鴨神社しみかもじんじゃにはさまざまな種類のお守りがありますが、

『雨の御霊あめのみたま』は玉の中に水が入っていて御神紋である金魚が浮いているのが特徴です。御利益は病気・です。」


そう巫女さんが言っていたのを思い出す。



二人で目を見合わせる。


「今日何処に行く。」


どうやらすっかり雨もやんだようだ。


「決まってるでしょ。」



end

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