第27話 どうせなら巻き添えで
すんなりいくかと思われた耳と尻尾の隠蔽だが、意外にも君枝ちゃんは苦戦していた。ウサミミを生やした時みたいに、ちょっと気合を入れれば簡単だと思うんだけど、君枝ちゃんにとってはそうではなかったみたいだ。
「魔力があふれて抑え込めないんだよ」
遠回しに、ダンジョンで暴れさせろという要求だった。関東局へ缶詰めになって3日になる。
これまでは、関東局内にある〈関東局ダンジョン〉で試行錯誤していたんだけど、出てくるモンスターはスライムだけで、熱い戦いなんてものは望むべくもない。
したがって、どこか他のダンジョンで、モンスター相手に暴れたいというのが君枝ちゃんの要求だ。
あまりストレスを溜めるのも良くないということで、その要求は受け入れられ、人気のない〈墓ダンジョン〉へ行くことが決まった。
ゴースト系モンスター相手にひと暴れし、休憩中に、
「あ、できたね」
と、あれだけ苦労したのは何だったのかというほど簡単に、耳と尻尾の隠蔽に成功した。
「やっぱり一度発散するのが大事だったんだよ」
そう言ってドヤ顔をする君枝ちゃんを見て、理恵さんが胡散臭く思ったのも仕方ないだろう。真実は、君枝ちゃんのみぞ知る。
そして、耳と尻尾の隠蔽が成功したことで、君枝ちゃんが比較的自由に動けるようになった。冒険者協会から私たちマヨヒガへ連絡があったのは、それから1週間後の12月初旬のことだ。
「無事にできたようじゃな」
「ああ。ちょっと苦戦したけど、ほら、この通り」
ぴょんぴょんとウサミミを出し入れしてドヤ顔を披露する君枝ちゃん。
「本当にウサミミが生えているんですね。興味深いです」
負けじと(?)熊耳をピコピコさせる彩華ちゃん。彩華ちゃんだけは、ウサミミモードの君枝ちゃんと初対面となる。
耳と尻尾を隠蔽できるようになるまで、無駄に注目を集めないため、会いに行くのは自粛していた。
また、〈人物鑑定〉スキルが存在する可能性を受けて、対鑑定用アイテムの作製をしてもらっていたということもある。
「尻尾はどうするにゃ?」
「尻尾は小さいし、我慢することにしたよ」
こちらにお尻を向けて、尻尾の位置をポンと叩く。尻尾があると知っていて、なおかつじっくり見ないと分からないくらいの膨らみしかない。……いや、なんかピピピと動いているから、横着せずに隠していないとバレるかも。
「尻尾穴を開けた服は作らないにゃ?」
「……1着くらいあっても良いね」
「局長、それはまた後日にしてください」
今日、私たちに連絡があったのは、ウサミミについてどこまで公開するかの相談だ。通信でやりとりするのはセキュリティ上の懸念があったため、こうして直接顔を合わせて話し合っている。
「別に妾たちに許可を取らなくとも良かったのだぞ?」
「いえ。元々は真神様からいただいた情報ですから、筋は通さないといけません」
「別に気にしてないっスよ?」
口からでまかせ、というには悪意のない愛理ちゃんの独自設定であったはずが、嘘から出た実(まこと)になってしまった。
私としても、愛理ちゃんが気にしてないから、情報をどう扱ってもらってもかまわない。
いや、確かにケモミミがたくさん増えると、マヨヒガのミステリアスさが薄れることにもなる。しかし、そんなことでちまちまするなんて、玉藻の前っぽくない。玉藻の前は、泰然として優雅で、ミステリアスで妖艶なのだ。
「真神もこう言っておる。冒険者協会の望むように公表したら良い」
「分かりました。ありがとうございます」
「うむ。そうじゃ。なんなら、お主もケモミミが生えるか試してみるか?」
「え!?」
関係ないですよ、みたいな顔をして部屋の隅っこにいた理恵さんに話を振ってみた。
「わ、私ですか?」
「理恵もケモミミを生やすにゃ?」
「いいね。どんなケモミミが生えるか気になるよ。私と同じウサギの耳かね?」
「今度はボクも見に行ってみたいです」
「茉莉がいないっスから、キムンカムイちゃんも来れるっスね!」
「え、あの、まだやるとは……」
「2人にケモミミが生えれば局長だけの現象とはなりませんね。それに注目を分散することもできます。後藤さん、やってくれますか」
「山根課長まで……」
うむ。とっさの思いつきだっけど、周りも結構乗り気のようだ。ただし理恵さんだけは困惑している。
「あらあら。もう諦めてケモミミを生やすしかなさそうよ」
「ミズチ様……」
理恵さんは机に突っ伏した。
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