第24話 最後なら一撃で

 万全の準備を整えて、その時を待つ。魔法に遮られていても、〈門〉の異常は明らかだった。


 ひび割れは〈門〉の枠にまで広がり、いつ崩壊してもおかしくはない。


「そろそろです」


 冷静な彩華ちゃんの声で、わずかに緊張が高まる。そしてついに〈門〉が崩壊した。


「来るぞ猫神よ!」


「にゃあ!」


「全開じゃ!」


「うにゃああ!」


 あふれ出るモンスターは、行き場所を求め、もはや狐火の中から生まれてくるような状態になっている。


 後から後から湧いて出て、その勢いは、遠からず狐火の範囲を超えるだろう。


「ぬぅ、狐火の範囲を広げる! 真神よ、後は頼んだ!」


「了解っス!」


「ふっ!」


 勢い込んで狐火に力を注ぐ。ぐんと1.5倍ほどの大きさになった狐火によって、周囲を覆う水が泡立つ。心なしか、私たちのいる場所の温度も上がっている気がする。


「これは周りへの影響がまずいね。ちょっと雨を降らせよう。『慈雨(じう)』」


 明日香さんの一言で、ちょうど『大水獄』の範囲にだけザーザーと雨が降り出した。


「うわ、ミズチの〈龍魔法〉っスか」


「そうよ。あまり戦闘には向かいないけど、あれば便利よね」


 農家さんにしてみたら便利どころの騒ぎじゃないと思うけど、まあ魔法スキルも同じ様なものか。〈属性魔法【水】〉でも畑に水やりとかできそうだしね。


「助かる。もう少々力を入れても耐えられそうじゃな」


「こりゃあ大怪獣バトルじゃないか。私たちの出る幕はなさそうだね」


「確かにそうですね」


 理恵さんと君枝ちゃんが何か言っているが、我慢してほしい。鳥型モンスターを逃がすとまずいからね。ここですべて倒す。


「気合入れるにゃ! うにゃ!」


 茜ちゃんも気合を入れ直し、狐火貫く雷が一気に増えた。『大水獄』まで届く雷もあって、たびたび爆発が起こって、ちょっとした花火みたいにパラパラ音が鳴っている。


 こんな時じゃなく、落ち着いた時にゆっくりと見てみたいね。


「モンスターの勢いが弱くなってきたようです」


「ようやくか。案外余裕じゃったな」


「あっ! 玉藻さん、それはフラグっスよ!」


「なに?」


 モンスターの影からちらりと見えた〈門〉は、まだ形を保っている。


「まだこの上があるということか」


「何か来ますっ!」


〈門〉の内より出てきたのは、圧倒的質量と体積。その大きさでもって、内側から狐火と大水獄を弾き飛ばし、誕生したのは、燃える怪鳥。フェニックス。


 降りしきる雨は、フェニックスに近づくだけで蒸発し、周囲は湯気によって視界が悪くなっていく。


 ――ピュウウウ!


 羽ばたき一つで周囲の湯気を吹き飛ばし、フェニックスが飛び立とうとする。だが、そこに割って入ったのは愛里ちゃんだ。


「させないっスよ! 『水景・大瀑布』!」


 頭上より振り下ろされる大量の水によって、フェニックスの体勢が崩れた。と同時に、溢れた水で周囲がやばい。


 スタンピードの時はダンジョン内での使用だったので周りに気にせず魔法が使えたが、地上ではそうもいかない。


「私にまかせて。『旱天(かんてん)』」


 先ほどは雨を降らせた〈龍魔法〉で、今度は水を干上がらせた。ちょっと私のお肌までピリピリしてる気がする。乾燥はお肌の大敵だ。


「続けて『水景・大水獄』! あたいが抑えている間に、決めて欲しいっス!」


 よしきた! 私、彩華ちゃん、茜ちゃんのパワーを集めて、フェニックスを倒す!


「キムンカムイよ!」


「はい! ベアトリクス、エリミネーションモード!」


 ――べあっ!


 空を飛んでいた白熊型騎乗ゴーレムのベアトリクスが変形を始めた。


 背中の彩華ちゃんが座席ごと左へ移動し、開いた背中から天を突く砲身が伸びていく。直径30センチ、長さ2メートルほどもある砲身は前方へと倒れ込み、その先端をフェニックスへと向けた。


「ディメンションアンカー展開!」


 ――べあっ


 ベアトリクスの四肢から爪のようなアンカーが伸び、空間に固定された。これで正確な射撃が可能となる。


「魔力チャージ開始! 玉藻さん、猫神さん、お願いします」


「うむ」


「やるにゃ!」


 砲身の根元から伸びるケーブルに自身の魔力を供給する。


「魔力チャージ30%! ガイドレール照射!」


 砲身から弾道予測のガイドレールが伸びていく、狙いはもちろんフェニックスの頭部だ。


「まだっスか!?」


 抑え込まれたフェニックスも負けじと暴れ続けている。蒸発する水と、生み出される水が拮抗しながらも激しく入れ替わり、このままでは魔力チャージが間に合うかは微妙だ。


「加勢するわ! くぅっ!」


 龍の姿のまま、明日香さんがフェニックスに絡みついた。いかに〈龍体〉とはいえ、直接炎の体に絡みつけば、HPへのダメージは避けられない。


「魔力チャージ50%!」


 ――ピュウウウイ!


「させないよっ!」


「はあっ! 防御はまかせてください!」


 こちらを狙ったフェニックスからの攻撃を君枝ちゃんと理恵さんが防いだ。


「もう少しだけ耐えよ!」


「魔力チャージ70%! 魔力砲、励起開始!」


 私と茜ちゃんの魔力を受けて、砲身が青と金に輝き始めた。その輝きは、次第に大きくなり、周囲を照らす。


「魔力チャージ90%! 混成魔力、規定値限界!」


 ビリビリとする圧力に尻尾の毛が思わず逆立った。


「魔力チャージ100%! 撃てます!」


「ミズチ、離れるにゃ!」


「火事場の馬鹿力っス!」


 停止したフェニックスに向けて――、


「てーっ!!」


 狐火と雷、青と金に輝く狐火雷が放たれて、フェニックスの頭部を粉砕した。

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